甘いところ-3
「祐介さんか、久しぶりに聞いたな。その名前」
「私殴っちゃダメ?とか言っちゃった。だってあれから何の連絡もないんだって」
私は時々冷静でいられなくなるときがある。
それは、正義感が強いわけじゃなくて。
そんな時いつもキミは私の手を黙ってギュッと握ってくれる。
安心する。
手、冷たいけど。
「その方が瑞希さんのためだよ」
「……そうかな」
「今度飲みに行こうよ。ぼくも瑞希さんに会いたいし」
「うん」
いつも励まされてるんだなキミに。
「ありがとう」
「何が?」
肝心なところが抜けてる君に軽くキスする。
「いい、わからなくて」
キミはハテナマークをいっぱい浮かべていたが、私の気持ち悪いくらい幸せな顔を見て、ま、いいかと笑った。
「あ!!」
「突然、何?」
完全に台所に忘れ去られた紙袋に目がはいったのだ。
「そういえば、バームクーヘン出すの忘れてたわ」
キミは心底驚いた顔で私をみる。
「え、今食べるの?」
「食べるでしょ」
「甘いのはコーヒーで充分だよ」
今まで平気そうに飲んでたくせに。
立ち上がって紙袋の中を取り出す。
さすがに、イチホールは食べれないので、包丁でショートサイズに切る。
ふんわり、しっとりしている。
「太ったら亮のせいだからね」
「別に灯が太っても気にしないけど?」
頭には、ぽっちゃりした私が浮かぶ。
ぽっちゃりした私がキミに抱きつく。
重いとバランスが崩れた。
それは、嫌と首をふる。
「………やっぱり、やめようかな」
「………?」
だけど、甘い香りでバームクーヘンは誘ってくる。
ジッとそのまま見つめ合う。
「……プッ」
キミはそんな私を見て笑い出した。