星降る夜の神話 其の弐-1
SecondStory:絢子
―大正―
いつもと変わらない朝だった。否、少しだけいつもと違うかもしれない。何故ならば、常ならば起こる筈のない事が起こってしまったのだから。
その日、絢子はいつもと同じ時刻に同じ人物に起こされた。それは、良い。が、その後が問題だった。
起こされ、起きた。ちょっと躰の節々が痛んだことに違和感を覚えながらも、起きた。何か昨日しただろうかと考えつつも。しつこいようだが、そこまではいつもと変わらない朝だったのだ。が、
シャラ
耳障りな音が絢子の耳に聞こえた。何と云うか、そう、まるで金属の擦れるような音が………。
嫌な予感が身体中を駆け巡りながらも、絢子は妙に重い腕を見た。…そう、腕を。細い銀色の鎖に繋がれた、己の右腕を。
「―…………………………………………」
沈黙。そして、
ジャラ
ぴくっ
「ぬぁによぉう!!!!コレはぁぁぁ―――――――っ!!!!!!」
キレた。
華族のお嬢様とは思えない程の大声で叫び、絢子は起こした人物をきっと睨むと、肩を掴みガタガタと揺すった。
「聡子!!何なのコレはきゃぁっ!?」
『コレ』と云いながら鎖を引っ張ったのだが、ベットに繋がれていた為、くいっと後ろに引っ張られてしまい、反動でベットの上に仰向けで倒されてしまった。
「………」
絢子は、もはや起き上がる気力も無くなってしまいそのままベットに倒れておく。その様子を、はらはらしながら聡子は見つめた。で、取り合えず絢子を縛りつけておくようにと命令した張本人からの伝言を伝えねばと心を決め、
「お嬢様、旦那様からの伝言にございます」
飽くまでも無表情で話した。
「何。…まあ、予想はできているけど」
いつもとは違う冷めた顔で話す絢子に戸惑いつつも聡子は話を続ける。
「『石野男爵の子息との婚約は進めておく。それまではこの部屋で頭を冷やしておけ』以上でございます」
「ー…へぇぇ?お父様も考えたものね。よりによって女学校が長期休暇に入ったその日なんて」
皮肉も込めたような口調で話し、にこにこと聡子を見ると、
「さあ、」
鎖で繋がれた右手を差し出した。
「…何でしょうか」
「外して。逃げるの」
分かった?と微笑むと
、耳打ちするように聡子に手招きする。
「あの…、」
困った様にして絢子のベットに近付き耳を貸した聡子の顔を見、満足気に絢子は呟いた。
「殴られて無理矢理鍵奪われるのと、どっちがいいかしら?」
と。