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『藤枝の話』
【少年/少女 恋愛小説】

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『藤枝の話』-3

僕は高校に入るまでの二週間の春休みのうち最初の一週間を藤枝の自殺の理由を探す事に、残りの一週間を藤枝を忘れる事に使った。
結局どちらも失敗した。
幾ら考えても自殺の理由なんて思い付かなかったし、幾ら考えまいとしても藤枝の事が浮かんできた。
藤枝の自殺の理由を考えていた一週間、僕は藤枝が死んだという事がうまく受け入れられなかった。
それはあまりにも直接的に不可解なシュールレアリスムの絵画のように感じられた。
けれどいつだってその思考をキャッチャー・イン・ザ・ライが打ち消した。
あの死んだ魚の目をしたクラスメイトの群れで藤枝以外の誰が自殺する時にキャッチャー・イン・ザ・ライを持ってくる?
アメリカのシリアルキラーが殺人を犯す前にキャッチャー・イン・ザ・ライを買うなんて都市伝説を他に誰が知っている?
あれは藤枝なりのジョークだったのだ。
二週間で分かったのはこの程度のものだった。
もちろん仮説はある。
いつだか藤枝が言ったように藤枝にとってはセックス及び恋愛事は勝ち負けが発生するストイックなものだったのかもしれない。
そして七連勝していた藤枝を何故だか僕が負かした。
藤枝は自殺し僕がチャンピオンになった。
もちろん藤枝がカーテンで遊んでいたら引っかかってしまったという可能性だってない訳じゃない。
ポテンシャルは無限に発生する。
あっという間に二週間は経ち、あらゆる物を失ったような気持ちになりながら僕は高校生活を得た。
酷い話だけど、この藤枝の話には一つだけ教訓がある。
人がたくさん死ぬ話にロクなものはない、という事だ。


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