星降る夜の神話 其の壱-9
あんなのが叔父など、恥ずかしくて嫌だ。そりゃ、親しみやすいのは確かだけど、『叔父』としての威厳とかが全く無いのだから。
…それより、今問題なのはこの現状を如何にして切り抜けるかだ。
悶々とそんな事を考えていると、
「石野」
「…え?きゃぁっ」
壱岐の顔がすぐ側に有った。
「い、壱岐…!?」
ばくばくと心臓が早く波打ち、耳が熱くなる。
ー何なんだコレは!!
胸を押さえながら、努めて冷静を装う。…顔が赤いのは、隠しようがないのだが。
「『話し合い』するんじゃねーの?」
面白そうに笑う壱岐を見、更に耳が熱くなる。
「え?は、話し合いね。うん」
ドクドクドク
ー止まれ心臓。
「石野…?」
す、と顔に手が伸ばされる。
「っぅあ!まっ、ストップ!!」
くるっと手を避けるように、壱岐に背を向けた。
「いし…、」
「…っ分からない!!」
壱岐の声を妨げるようにして話す。
「分からない。……こんな、苦しいだけの気持ちが『恋』かどうかなんて」
「…石野」
壱岐の驚いたような声が聞こえた。
「正くんは、『恋』って言ったけど、こんなの、哀しくて苦しいだけじゃない…」
「石野」
「…っや、」
頬を壱岐の両手に挟まれた。少し冷えた手が熱くなった私の頬を包み、ひんやりと冷たくて心地良い。
「嫌、見ないでよ」
「何で、」
「…嫌だから」
「ヤだ。俺、今すっげぇ嬉しいのに」
その言葉に更に赤くなってしまい、慌てて顔を下げる。
「…願い」
「え?」
「お願いをしたの。昨日」
「……何の?」
その言葉に答えず、顔を上げて真っ直ぐ壱岐を見る。
ーそう、昨日の夜あの『星降る夜の願い』をやってみたのだ。
『星降る夜』がいつなのかは分からない。けれど、昨日星空を見たら流れ星が流れた。とっさに、それに願ったのだ。『この苦しみの意味を教えて欲しい』と。その答えが、これなのだろうか。この苦しみの理由(わけ)は…、
「石野?」
見つめたまま私が何も言わないので、壱岐が何事かと不思議そうに私を見た。
「い…」
「好き。」
単刀直入に言う。それ以上は恥ずかしくて言えない。こんな事も、初めてだ。此処まで恥ずかしくなったのは。
「…っな、何か言ってよ」
黙り込んだ壱岐に唸るように話す。
「…ごめ…っ何か、嬉しくて」
ぽたっ
頬に暖かい水が慕る。
「え?」
ー泣いてる?
「うわ、ゴメン。格好悪ぃ…」
「壱岐…」
ー何故気付かなかったんだろう。
そっと壱岐の頬に触れ、涙の痕をたどる。
「石野?」
ーこんなに、愛しいのに。
「大好き」
優しく壱岐の唇へと合わせる。
「石野…」
大切な人に名前を呼ばれることが、こんなに嬉しいなんて知らなかった。
「好きだ、石野」
柔らかく微笑みながら、もう一度唇を合わせた。