「命の尊厳」終編-7
家鋪は勅使河原邸を出た。
屋敷の門をクルマで抜けると、暗い住宅街の小道をゆっくりと進んで行く。
小道には路肩に寄せられたクルマが見えたが、彼は気にも留めずにそのそばを通り抜けた。
クルマから人影が浮かび上がる。
高橋だった。
(やはり動いたか…)
高橋はクルマのエンジンを掛けると、ゆっくりと住宅街を離れて行った。
ー翌日ー
「この男に間違い無いですか?」
「ええ、この男です。この男が、〇〇通りに貼られたポスターの撤去を訴えに来ました」
〇〇市役所。環境保全課。
新米刑事の加藤は、役所の担当者を訪ねて家鋪の写真を見せると、聴き込みを開始した。
「すると、街の景観を損なうと言ったわけですね?」
担当者は、小さく数回頷くと、
「そうです。もっと注意するような看板はたくさん有るのに、わざわざですよ」
やや感情的に答える。
加藤は担当者の説明を手帳に書き込むと、礼を言ってその場を離れた。
市役所を出て駐車場に停めたクルマに乗り込み、さっそく署に連絡を入れる。
「……ええ。職員が証言しました。家鋪という弁護士に間違いありません」
加藤の連絡を受けていたのは、牟田だった。
「そうか。ご苦労だった。署に戻ってくれ」
牟田は静かに受話器を戻した。
昨夜、高橋から伝えられた家鋪から前園への電話内容。
そして、今の加藤からの報告。
それらは、何らかの形で事件に関わっていると思わせるのに充分だった。
(功を焦って自分で墓穴を掘るとはな……)
牟田は、意味あり気に含み笑いをするのだった。
その日午後。警察署から15分ほどの場所にあるビジネス街。
様々なビルが、すべての交通網を取り囲むように建ち並んでいる。