「命の尊厳」終編-5
《犯人を探しています。今年1月24日の深夜。この先で野上諒子さんが轢き逃げに遭い、亡くなりました。この件についてご存知の方。私共に情報をお願い致します。
彼女を轢き逃げした車種は、銀色のニッ〇ン・マー〇で、犯人は茶髪をした若い男です。》
ポスターには野上諒子の写真を添え、その下には、連絡先である〇〇県児童養護施設 楠の木学園と、その責任者である前園ふみの名前が記載されていた。
高橋は一心不乱にポスターを貼り続けた。
「…終わった……」
作製したポスターを、すべて貼り終えたのは夜半過ぎだった。高橋が貼った距離は数百メートルに渡っている。
だが、高橋には不思議と疲れは無かった。それよりも、これからの事を考えるだけで奮い立つ思いに駆られていた。
(…これで明日からは……)
明日からの事を考えながら足早ににクルマに乗り込むと、高橋は自宅へ向けて大通りを南に走らせるのだった。
ー翌日ー
夕方。楠の木学園に1本の電話が入った。相手は勅使河原の顧問弁護士を勤める家鋪だった。
「何故、今頃になってあんなポスターを貼られたんです?」
彼は挨拶も早々に、そう切り出しす家鋪。応対に出た前園は、高橋との打ち合わせ通りに返答する。
「貴方に理由を言う義務はありません」
「私にそんな事を言って、後々困るのはオタクですよ」
「何故、私共が困るんです?貴方がどんな人物かは存じませんが、私は役所の許可も受けております。何だったら、お調べになればよろしいでしょう」
それまで丁寧だった家鋪の口調が豹変した。
「まあいい。それより、何でアンタが車種や犯人の特徴まで知ってんだ?」
家鋪は明らかに苛立っていた。
前園は頃合いは良しと思うと、再び高橋に言われた事を実行した。
彼女は静かに答える。
「…あの子が教えてくれたんです。深夜、息も絶え々の中、あの子は私に連絡してきて、クルマはニッ〇ンのマー〇で、運転手は茶色の髪をした若者だって……」
「…!」
家鋪は、絶句したまま慌てて電話を切った。
(…そんなバカな……)
彼は直ちに勅使河原昌信へと連絡を取ろうと、再び受話器を握る。
その頃、前園も同じように高橋に連絡を入れていた。