「命の尊厳」終編-26
「なに? あれ」
諒子の右手の先には、白い塔が建っていた。白いレンガを積み上げ、天へ届くように高くそびえていた。
「あのてっぺんよ。2人が出会った場所…」
「何を言ってるの! さっきの事に答えてよ」
由貴の言葉に、諒子は微笑むだけだ。
「…今日はね。お別れを言いに来たの……」
由貴の表情が凍りついた。
「…な、何をバカな事を言ってるの!?」
震える唇でようやく出た言葉。
しかし、諒子はゆっくりと首を振った。
「これからのアナタに私は必要無いの……」
そう言って諒子は微笑む。
「これからも! ずっとずっと一緒だって誓ったじゃない!」
涙を流して必死に訴える由貴。
その手が諒子の肩に触れた瞬間、彼女の目に哀しみが映った。
強い突風が舞った。
「キャッ!!」
あまりの強さに、由貴は地面に倒れ込んだ。
突風が止んだ。
「…! りょ、諒子さん!」
もう、諒子はいなかった。
由貴は目を覚ました。
暖かな日差しがカーテン越しに部屋を明るくし、外からは鳥の鳴く声が聞こえてくる。
だが、今の彼女には無意味だった。
突風の中、最後に聞いた諒子の言葉が耳に残る。
(…さようなら。そして、ありがとう……)
…「命の尊厳」完…