「命の尊厳」終編-23
報道はこの裁判を取り上げた。
特に加賀谷の証言を歪曲にして。
〈心臓移植による人格の転移有り! 心臓には人格が宿る。ならば脳死者からの心臓移植は殺人ではないのか?〉
テレビのニュース番組では、メインとして取り上げ、コメンテーターやコラムニストと呼ばれる評論家が、勝手な注釈と持論をタレ流した。
これは、加賀谷が望む、心臓病の重症患者をひとりでも多く助けたいとする思いとは逆行したモノとなってしまった。
加賀谷は〇〇大学病院を辞職させられた。守秘義務違反の責任を取って。
ー1ヶ月後ー
「被告人は前へ出て下さい」
裁判長の声に合わせ、由貴は席の両側に座る看守にお辞儀をすると、席を立った。
判決の日。
件のニュースのためか、傍聴席は考え難いほどの倍率の抽選に受かった人達で埋め尽されていた。
由貴は3人の裁判官に頭を下げ、視線を先に落として姿勢を正した。
彼女は思っていた。
どんな有罪でも受けようと。
重苦しい沈黙が法廷内を包む。
裁判長が由貴を見た。
「主文。被告人、森下由貴を」
法廷内すべての人が次の言葉を待った。
「…無罪とする…」
(えっ?)
由貴は思わず裁判長を見つめた。傍聴席に座る報道陣は、慌てて席を立って仲間と替わり法廷を後にした。
その前席に座る由貴の両親、邦夫と京子は判決に涙を流す。
「…お父さん…よかった…よかった…」
「…ああ…」
泣き崩れる京子の肩を抱く邦夫も涙声だった。
それは由貴も同じだった。
「…判決理由は………」
流れる涙を拭おうともせず、漏れそうになる嗚咽を堪えて裁判長の言葉を聞いていた。