「命の尊厳」終編-2
「で、ご用件は?出来れば手短にお願いしたいのですが…」
「分かりました」
家鋪は頷くと牟田に申し出る。
「では単刀直入に。勅使河原信也氏に対する捜査を即刻、止めて頂きたい」
牟田の目に厳しさが映った。
「それは、どういう理由で?」
「それは逆にお訊きしたいくらいですよ。何の容疑で彼の身辺を探ってるんです?」
家鋪は笑みさえ浮かべて牟田に問いかける。だが、これに引っ掛かる牟田ではない。
「それには、お答え出来ませんな。お分かりでしょう?」
「確かに。だが、何の罪も無い人間が罪人のように追い詰められるのを、弁護人として黙って見てるわけにはいきません。
おかげで、彼は精神的ストレスに苛まれてます」
家鋪は内ポケットから1枚の紙きれを取り出してテーブルに置いた。それは、医師の診断書で、信也が自律神経失調症だと記されている。
「もし、今後も捜査を続けられるのでしたら、人権侵害と名誉毀損でアナタ方を告訴します」
「家鋪さん。アナタ、本気で仰ってるんですか?」
牟田の問いかけに家鋪は頷く。
「もちろんです。過去、警察は無実の人間を被擬者に仕立て挙げるという、数えきれないほどの冤罪例が有りますからね。
裁判ともなれば、アナタ方は捜査内容を明らかにする必要が有る。私共は、どこまで引っ張っても構いませんよ……」
家鋪は口の端を上げて、笑みを浮かべた。
「それは、脅しかね?」
牟田は家鋪を睨み付ける。
だが、家鋪はノンシャランな表情で、
「とんでもない。警告ですよ」
そう言いとソファから立ち上がった。
「私の用件は以上です。では、よろしく」
家鋪は、ひとつ頭を下げると応接室を後にした。
「この話を桜井君に聞かせても、正義感の強い彼の事だ。絶対に捜査を止めんだろう。そこで仕方なく異動の辞令を出したんだ」
初めて聞かされた事実に高橋は驚いた。が、疑問が残る。
「ですが課長。何故、目撃証言が有りながら任意同行を求められないんですか?」
「……それは…」
牟田は目撃者である森下由貴の証言が何故、任意同行に使えないのかを仕方なく語った。