「命の尊厳」終編-13
「先生。私と先生って、出会ってどのくらいになるか知ってる?」
加賀谷は上目を向き、口を一文字に結び〈う〜ん…〉と考えて、
「…確か…2年と2ヶ月じゃないか?最初の2ヶ月は前任の准教授だったから…」
「当たり!!」
加賀谷の答えに、由貴は嬉々として答えた後、
「先生…今までありがとうございました」
その顔を見た加賀谷はギョッとした。瞳に涙を溜めていた。
「…先生。私ね、先生が大好きだった……」
生まれて初めての告白。
由貴は哀しみに満ちた表情を湛え、加賀谷の顔を見る事も無くその場を立ち去った。
残された加賀谷は複雑な心境で、遠くなる後姿を見つめるだけだった。
「何故、あの娘はあんな事を…?」
夜のひと時。加賀谷はグラスを傾けながら思いに耽っていた。
由貴の事は18歳の頃から知っている。重度の患者だった。だが、それを未塵も感じさせない明るさと可愛らしさを持っている。
しかし、それだけだ。
自身がひとりっ子というのもあって、彼女の事は年の離れた妹のような存在と思っていた。
その由貴から突然の告白。
いざ、彼女の想いを聞いた時、加賀谷自身が思い描いてた気持ちとはかけ離れていた。
一瞬の戸惑い。そして、後に湧き上がった嬉しさ。
(…オレは彼女の事が……)
初めて自分の気持ちに気がついた加賀谷。
しかし、彼の中で疑問が浮かび上がる。
(…大好きだった? 何故、彼女は過去形で言ったんだ?)
モヤモヤとした不安が頭の中に広がった。
ー翌日ー
「ねえ、お母さん! 今日、泊まりに行っても良い?」
「エエッ!!」
由貴のお願いに、京子は驚きの声をあげる。
昼食後のひと時。テーブルでお茶を飲む由貴が、洗い物に勤む京子に言った。
京子が慌てて振り返る。
「どういう事よ?」
「この間会った有理がね。ひとり暮らしを始めたから遊びに来てって。ねえ、良いでしょう?」
「…でも。アナタ、この間も倒れて……」
京子は表情を曇らせた。
そんな母親の心配に、由貴は明るく答える。