月の裏側-2
部活も終わり、みんな早々と帰っていく、いつもの風景。これからが、それぞれの裏側の時間なのだろう。
「一緒に帰るの、久しぶりだね」
「そうだな。帰る理由もなかったし」
「ひっどーい!」
僕は久しぶりに少女と帰っている。背は伸びても、少しも変わっていない少女。
この少女の前でだけは、僕も変わらず裏側を少し見せられる。
『でも、彼女はどうなんだ?』
分からない。変わっていないと思うのは、昔も今も、片側しか見せてくれないからかもしれない。
『なら、なぜ彼女に裏側を見せる?』
なんとなく、僕のことを知ってくれるのが嬉しいから。
『僕は彼女が好きなのか?』
好き…なのかもしれない。だけど、分からない。そこまではっきりした感情ではないかもしれない。ただ…
「ねぇ、ちゃんと聞いてる?」
「え…?あぁ、悪い。聞いてなかった」
「もぅ!そんなんじゃ恋人できないぞ」
「…別にいいだろ」
ただ、他の人よりは笑っていてほしい。
「あれ?まさか気にしてる?」
「そんな事ない」
「またまたぁ。ホントは独り身で寂しいんでしょ?」
「…」
「なら、私が付き合ってあげる」
思わず立ち止まってしまったが、彼女は歩き続ける。
「え…?えっと…オレ…」
「…なーんてね。あははは、冗談だよ」
立ち止まり、くるりと振り向くと楽しそうに笑った。
きっと僕はいま相当間抜けな面をしているだろう。
彼女が再び背を向けて歩きだしたので、駆け足で隣に並ぶ。
「あはは!あー、面白かった…」
「…性格悪いぞ」
「だってあんなに狼狽えるとは思わなかったしさぁ」
「……」
「それに…」
こんどは彼女が立ち止まった。
「……は嘘じゃないもん」
振り返ると、彼女が顔を真っ赤にして笑っていた。
「今、なんて…?」
「えへへ、教えてあげないよーだ!」
「おい!なんて言ったんだよ!」
あの主人公の気持ちはまだ分からない。でも、そのうちに分かるかもしれない。
これからは、恥ずかしがり屋の月も、裏側を見せて笑っていてくれるだろうから…