交錯点の先の彼女-1
「ちょ……先生?」
私は先生の腕の中にいた。
何でこんなことになったのか、わからない。
とにかくわかるのは、何の前触れもなく抱きしめられたということだけ。
別にイヤとかいうわけではない。むしろ……。
ギュッと力が込められる。
最初は、我慢できたが、息ができないので限界がきた。
「……くるしぃ…です」
「………!ゴメン」
スッと優しく解放されたがまだ心臓の動きは収まらない。
先生は近かった椅子の距離をガタガタと離した。
そういえば、今は補習をしていたんだ。机の上の日本史の教科書を見て、やっと我にかえれた。
床には、シャーペンと消しゴムが散らばっていた。抱きしめられた瞬間、無意識に落としてしまったやつだ。
「えっと」
「……はい」
ようやく先生の顔を見れた。頬が赤くていかに慌てているのがよくわかる。
今、自分はどんな顔してるのかな?
「とにかくゴメン……その何て言うか」
「き、気になさらないで下さい」
「えっ?」
屈んで落ちていたシャーペン、消しゴムを拾いペンケースに急いでしまい、持ち物をまとめる。
逃げたい。今はそう思う。
「別に誰にもいいませんし、大丈夫ですから……」
何言ってるんだろう。しかも、早口でかみかみだし。
先生の顔、また見れなくなった。返事ないし。
「…………」
「今日は、あの失礼します。どうもありがとうございました」
頭を下げ、走って補習室を出た。
どうしよう、明日から。
何も整理できないまま、とりあえずカバンを取りに教室に戻ることにした。
途中、廊下で誰に声かけられてるのかもよくわからない。足取りがおぼつかず、フラフラしている。何も落ちてないのに足元を見て歩く。
それが、危ないなんてまったく考えず。
「あ、危ない」
「えっ?」
その声で我にかえり、前を向いた瞬間、ゴンっと壁に頭をぶつけてしまった。
やっと気づいた、私。バカだ。
「痛い……」
「だから、言ったのに」
同じクラスの浅井くんが笑っていた。
笑うなんてひどいといつもなら、いうところだけど。
今回ばかしは違う気がした。
「そうだね、今度から気をつけなきゃね」
浅井くんは、わたしをジッと不思議そうに見ていた。
「…………何?」
「ん…、何かあったの?」
「えっ!?」
さすがに自分でもかくし通せない返事をしてしまったと思う。
また私は目をそらすことができない。浅井くんがジッと鋭い目で見てくるから。
だから、私も負けじとジッと見る、
浅井くんは、それが、おかしいのかまた笑った。
もう……。
あれ?浅井くんって普段こんなに笑う人だったけ?
違うよね。
仕方なく一応認めた。
「ちょっ、ちょっとね」
「ふーん」
そういえば気になることがあったので、話をまぎわらすためにも聞いた。
「あ…浅井くんこそ、こんなとこで何してるの?部活?」
「ん…、まぁ、いろいろ」
「なーに、いろいろって?」
「ちょっとね」
「………」
上手くかわされた。まぁ、いいけど。
「まぁ、お互いいろいろ大変ってことで。じゃあ、お先に失礼」
「あぁ、また明日」
「うん、明日」
何だか足取りが軽くなった。
先生のこと、すっかり忘れていた。
部屋でねっころがった瞬間、すべてが走馬灯のように出てくるとは知らずに。