「命の尊厳」後編-7
ここ数日。彼は悩んでいた。
保身のために自分がとった行動に対する、由貴の言った言葉がずっと胸に突き刺さっていた。
〈私、先生が喜んでくれると思っていた〉
疑いの無い聡明な目に不安を映し、加賀谷を見つめる由貴の顔が目に浮かぶ
(オレは…なんであんな事を……)
加賀谷は回診の準備を終えると、看護師達の待つ元へと足早に向かった。その表情には、苦悩を表す眉間のシワがありありと刻まれていた。
ー夕方ー
桜井の元に谷口が加工してくれた写真と、勅使河原名義の登録車リストが揃った。
「こちらの写真は、目撃者に確認してもらうとして……」
桜井はリストを見て困惑した。
事故に使用された小型車の登録が、どこにも載っていないのだ。
「てっきり隠したままかと思ったんですがねぇ……」
高橋も困った顔を見せる。
「どのくらい過去まで調べたんだ?」
「約半年前までカバーしています」
「そうか……」
(どういう事だ?ガレージにあったオイル跡は、勅使河原のクルマじゃなかったのか……)
「どうします?桜井さん。勅使河原親子の交遊関係を調べますか」
桜井は目を閉じ、俯くと考え込んでしまった。
勅使河原親子が友人のために事故を隠してるとは考え難い。
ならば友人のクルマを運転している最中に、事故を起こしたと考えるのが妥当だ。
(すると、友人の登録車を調べる必要があるな)
桜井は目を開くと高橋を見つめた。
「…そうだな。オマエは明日、過去、半年間に登録抹消したニッ〇ンの小型車をすべて調べてくれ」
「分かりましたけど、桜井さんはどうするんです?」
「オレは今から目撃者に写真の確認に向かう。明日は息子の友人関係を調べてみる。
事故を隠蔽したとすれば、何らかの綻びがあるはずだからな…」
そう高橋に伝えると、桜井は刑事課のフロアを飛び出した。