「命の尊厳」後編-5
「突然、失礼でしょう!まるで容疑者のように。それに、3ヶ月半前のアリバイなんて即答出来るわけ無いでしょうが」
「いやあ申し訳ない。職業柄、つい訊いてしまって…」
桜井はそう弁解すると頭を下げた。そして、ガレージの方に視線を移すと、
「…ところで勅使河原さん。お宅ではオイル交換も、ご自身でやられるのですか?」
それを見た勅使河原親子の顔色が変わった。
昌信が再び声を荒げる。
「それは捜査と関係有るのですか!」
「いえ。単に伺っただけです」
「だったら、もう帰ってもらえますか?コイツや私も忙しいんですよ!」
「ああ、これは失礼しました。ご協力に、つい長居してしまって」
桜井達は、半ば追い出されるかたちで勅使河原邸を出て行った。
「何なんですか!アレは…」
高橋は憮然とした表情でクルマに乗り込んだのに対して、桜井は満足そうな表情を湛えていた。
「息子の顔を見たか」
「ええ。似顔絵に似てましたね」
「それに、あの慌て様……間違い無くあの親子だな…」
静かに語る桜井に、高橋は煽るように声を挙げる。
「だったら、捕まえましょうよ!任意ででも連れて来れば、すぐに吐きますよ」
「まてまて。オマエは短絡的でいかんな。任意なんて拒否すれば、それまでだろう。
それよりも物証を探すのが先決だ」
桜井は諭すように高橋に言うと、
「今から署に戻ってくれ。公安と運輸局のデータベースにアクセスして、息子の写真とクルマの購入履歴を調べてみよう」
桜井達を乗せたクルマは、静かに動き出すと元来た道を帰って行った。
勅使河原昌信は、息を殺してその様を見つめていた。