「命の尊厳」後編-20
「どうしたんですか!?桜井さん」
「オレは来週から〇〇署に異動となった。後はオマエが引き継いでくれ」
「そんな!」
高橋は驚愕の表情を向けた。
桜井は、そんな高橋の肩に手を置くと、
「後は頼むぞ……」
そう言って刑事課のフロアを後にした。その姿を目で追っていた高橋は、視線を切ると牟田のデスクに向かった。
「どういう事ですか!!やっと、ここまで来れたのは桜井さんのおかげじゃないですか!!それを、いきなり異動だなんて。刑事局は何を考えてんですかぁ!」
高橋は感情を爆発させた。
この数ヶ月。桜井に付いて刑事としての在り方を、やっと知り得るようになった高橋にとって、彼が居なくなるなど考えられなかった。
だが、高橋以上に牟田はそう感じていた。
彼は自重気味に、怒りを露にした。
「そんな事は君に言われるまでもないよ。しかし、我々は組織の人間だ……」
そう言って牟田は、ひと息つくと、静かに言った。
「組織にいれば、理不尽な事でも受け入れなきゃならんのだ」
牟田の拳がデスクを叩く。
その姿を見た高橋は、彼の思いの強さを垣間見た。
「我々は、与えられた戦力を最大限に用いて結果を出すしかないのだよ」
牟田の声が虚しさを湛えて高橋の耳に聞こえた。
…「命の尊厳」後編 完…終編につづく。