「命の尊厳」後編-17
「お待たせしました」
飯田が戻って来た。
手には〈整備伝票綴〉と書かれたぶ厚い書類が握られている。
桜井が訊いた。
「昨年の11月から今年の1月までに販売された分を教えて下さい」
飯田は書類をパラパラとめくりながら、
「……その期間には…販売してませんね」
「本当ですか?」
「ええ。ウチで最後に売れたのが昨年の10月ですから」
そう言って展げた書類を桜井達に向けた。
確かに昨年10月以降、そのパーツは販売されていなかった。しかも、客の住所、氏名がまったく違う。
「…この住所、氏名は間違い無いのですか?」
「ええ。私どもは免許証の提示を義務付けてますので間違い無いです」
どうやらこの店では無いようだ。
桜井達は、店長に礼を言うと席を立った。すると飯田は、
「いえいえ。刑事さんのお役に立てなくて残念です」
そう答えると、急にトーンを落とす。
「…あのう、先ほどの違法の件は…?」
桜井がにこやかな表情で返した。
「大丈夫ですよ。飯田さんは実に協力的でした。それに我々とは管轄が違いますから」
それを聞いた飯田はホッとした表情を見せる。
「ありがとうございます!」
「また何かありましたら宜しくお願いしますね」
「も、もちろんです」
飯田は深々と頭を下げて2人を見送った。
店を出た桜井達は、クルマに乗り込んだ。リストアップされた書面の1番上の欄にバツ印を書き込むと、
「じゃあ、次は〇〇市〇〇町1-15-27だ」
「分かりました」
高橋の運転するクルマは、駐車場を離れて本線に合流すると、北へ向かって走り出した。
最初の1軒目を空振りに終わると、2軒目、3軒目とたて続けに外れだった。すると、高橋の顔に焦りの色が見え始めた。
残りは2軒。そうして訪れた4軒目。
今までの店よりも小じんまりとした店だった。
さっそく店主に事情を話すと、
「ああ、それでしたら今年始めにコンプリート・キットを販売しましたね」
店主の答えに、高橋は顔を赤らめる。