「命の尊厳」後編-16
ー翌日ー
桜井達は、高橋がリストアップしたサスペンション・アームを取扱う店に向かっていた。
「まずは、ここですね」
店の外にはタイヤが幾つも並べられ、広いガレージの中では従業員がクルマのタイヤやホイール、マフラーなどの交換作業に勤んでいる。
「桜井さん。アレ、見て下さいよ」
桜井は指差す方向を見た。
それは軽自動車に、異様なせり出しをしたバンパーを交換している光景だった。
「交通課のヤツらに教えてやったら喜びますよ」
高橋はニヤつきながら言った。
「確かにな…」
2人は店のドアーを潜った。
途端に女性従業員の可愛らしい声が掛けられる。
「恐れ入りますが、こちらの責任者に取り次ぎ願えますか?」
2人は素早く警察手帳を提示した。
「しょ、小々お待ち下さい」
女性従業員は、慌ててカウンター横にある電話の受話器を掴むと、内線ボタンで店長に伝える。
すると、数分もしない内に血相を変えた小太りの男が現れた。
「…店長の…飯田です…」
よほど慌てたのだろう。飯田の息が上がっている。
「〇〇県警刑事課の桜井に高橋です。ちょっとお尋ねしたい事がありましてね」
「でしたら、話は…事務所の方で…」
桜井達は飯田の後に付いて、2階の事務所奥にある応接室に案内された。
1階の派手な店内とは打って変わり、落ち着いた雰囲気のある室内。
2人はソファに腰掛ける。
「手短にお聞きします。こちらで取扱ってらっしゃるニッ〇ン・マー〇のレース用サスペンション・アームの販売履歴を教えて頂けませんか?」
高橋の問いかけに、飯田は顔を曇らせた。
「…な、なにを根拠に…ウチは違法改造になんて……」
「調べはついてます。この店が、〇〇社製のサスペンション・アームを取扱ってる事は。
ついでに言えば、今、ガレージでバンパー交換しているワゴン〇。あれも違法ですよね…これを私が県警に報告したらどうなりますかね?少なくとも笑っては済まさないでしょうね…」
高橋の〈生の脅し〉に頭を垂れる飯田。少し薬が効き過ぎたようだ。
「飯田さん。もう1度伺いますよ。サスペンション・アームの販売履歴を教えて下さい」
「…分かりました。ちょっと待ってて下さい」
飯田は、そう言うと席を立って事務所に向かった。
(こいつも随分と上手くなったな)
サスペンション・アームの件や、今の交渉術といい、桜井は高橋の成長に笑みを浮かべていた。