「命の尊厳」後編-15
「お疲れさまです!桜井さん」
薄暗い刑事課のフロアに戻った桜井に、場違いなほど弾んだ声が掛かる。
「…なんだ?オマエも居たのか」
そう言った桜井の顔は笑っていた。これまで、自分が遅くなって高橋が待っている事は多々あったが、いつも、ぶっきらぼうな顔を見せていた。
それが、今日はハツラツとした表情を見せている。それを見た桜井の顔も緩む。
「何を見つけたんだ?」
桜井の言葉に、高橋の表情が驚きに変わった。
「な…何で分かるんです?」
「オマエの顔に書いてあるよ。〈きっかけを掴んだ〉と…」
高橋はバツの悪そうな顔を見せる。
「桜井さんには、何でもお見通しなんですね…」
「前置きはいいから…何を見つけたんだ?」
桜井の問いかけに、気分を切替えた高橋はパソコンのディスプレイを指差すと、昼間のサスペンション・アームの件を説明して、
「この車種なら、レース用のサスペンション・アームを使えば、車幅が例のヤツと同じなんです。
このタイプはかなり出回ってますが、県内で、この1年間に取扱われたのは10件、うち1件はスクラップとなり現存しません」
桜井の表情がみるみる変わった。
「でかした!高橋。よく短時間でそれだけ調べたな」
高橋は照れたような表情を見せる。
「それが…最初は自分なりに調べてて…その時に課長がヒントをくれたんです」
「課長が…?」
桜井が不思議な顔をする。
「調査で行き詰まってる時に〈何か見落としてるんじゃないか〉と言われまして……そしたら閃いたんです」
「…そうか…」
桜井には、にわかに信じられなかった。
しかし、高橋が初めて自分の力で、昼夜を忘れて調べ上げた物だ。
何とか役立ててやりたいと彼は思った。