「命の尊厳」後編-14
ー夜ー
「オイッ!それ本当なのか?」
勅使河原信也は、携帯に掛って来た友人からの電話に、声を荒げた。
友人の声が耳に響く。
「本当だ!オレも含めて3人が事務局に呼び出されて、〇〇署の刑事に聞かれたんだ!」
友人の言葉を聞いているうちに、信也の呼吸は乱れ、顔を引きつらせ、携帯を持つ指が小刻みに震えだした。
信也は必死に冷静さを保って、友人に訊いた。
「…そ、それで、オマエら何て答えたんだ…?」
「何って…オマエが今年始めにクルマを買うって言ってたって…」
「テメェッ!!何でそれを教えたんだ!この!大バカ野郎がぁ」
信也は怒りに任せて、友人に罵声を浴びせると携帯を切った。
激しい息遣いだけが部屋に響き渡る。
思考は完全に遮断され、ただ〈助かりたい〉思いだけが心を支配していた。
ちょうどそこに、クルマのエンジン音が聞こえて来る。
彼の父親、勅使河原昌信が帰って来たのだ。
信也は慌てた素振りで部屋を出ると、玄関前で父親を待った。
そこに現れた昌信。
「ただい…!ど、どうしたんだ?信也…」
驚きの表情を見せる昌信に、信也は、すがるように近づいて言った。
「親父!!オレ、このままじゃ捕まっちまう」
その表情は、焦燥し切っていた。
「どういう意味だ!順をおって話せ」
父親に促され、信也は昼間に起きた友人と刑事のやりとりを、知る限り詳細に伝える。
「…親父。オレ、捕まりたくないよ…何とかしてくれよぉ…」
息子の懇願を聞いた昌信は、しばらく考えていたが、
「…やはり、頼まんと無理か…」
そう言うと、跪く信也の肩に手を置いて言った。
「信也。オレに任しとけ。警察が来ても、指1本触れられんようにしてやる」
昌信はそう言うと、何度も何度も信也の肩を叩くのだった。