「命の尊厳」後編-13
「しかし、彼が普通免許を取ったのが11月で、その免許を取得するまでの間に彼はずっとアナタ方に、その経過を逐一聞かせていたのでしょう?すると、クルマを購入する際にも同じ事をしたと、考えるのが自然だと思われるんですがねぇ……」
桜井は温和な表情を見せながらも、鋭い目を友人達に向けるのを忘れなかった。
静寂と緊迫した雰囲気がが室内を支配していた。
「…そう言えば…」
友人のひとりが声を漏らす。
「今年の初め頃だったかなぁ…アイツからメールが来て、クルマを買うようになったからって…」
桜井はメモに書き取っていく。
「オマエ。いい加減な事を言うなよ!」
別の友人が、答えた友人に対して食って掛かる。
だが、相手も引かない。
「ウソじゃねぇ!ホントにメールが来たんだ」
2人のやりとりを、まったく意に介した様子も無く桜井は言葉続けた。
「なるほど。その後、彼はクルマを購入しましたか?」
「それが…1週間ほど経った時、アイツに訊いたらダメになったって…その後は、今のイン〇レッサ以外知りません」
(…前のクルマがダメになったのが1月下旬。事故と重なるな)
「…その、ダメになった理由は言ってなかったかな?」
桜井の問いかけに、友人は記憶の糸をたぐり寄せるが、
「…いえ。オレが訊いた時は〈ちょっとな〉としか言ってなかったとですね」
(…ここまでか……)
桜井は書き残したメモをチェックし終わると、彼らにお礼を言って事務局を後にした。
乗り込むクルマの中で、今までの情報を頭の中で整理して、推測を加えて再構築する。
(…おそらく、勅使河原信也は1月下旬にクルマを購入した。そして、そのクルマで野上諒子を轢いてしまった。
だから、友人にはダメになったと答えるしかなかった。
その後、今に至るまでクルマを何処に隠している。
その隠蔽するためにガレージを使った時、オイル跡が残った……)
こう考えれば実にスムーズだと桜井は思った。
(これを立証するには、もっと外堀を埋めにゃならんな…)
桜井の乗ったクルマは、ゆっくりと大学の正門から出て行った。