Secret Word-3
「あの、佐伯せんせ「知ってるんですよ、俺。あなたが河合に対して特別な感情を持ってること。勿論、幼なじみ以外の、ね」
「…それは、」
否定しようとするが声にならない。グラスを持つ手がやけに熱く感じる。
「まぁ、俺も同じ境遇だからですかね、ピンと来たんですよ」
佐伯はそう言って笑った。
「『同じ境遇』って、…まさか佐伯先生…」
「えぇ、まぁ、一応、付き合ってます。彼女が卒業するまでは2人で出掛けることすらできませんがね」
そう言って佐伯は俺のグラスまで奪って飲み始めた。
「山本先生、女ってモンはすぐに変わってしまう。見た目でも、中身でも、相手に対する感情もね。河合だって恋もする。今はいなくても、好きな奴ができるかもしれない。だからさ、そうなる前に奪っといた方がいい」
「佐伯先生…」
「俺もそうなんだよ、彼女と最近すれ違ってばっかで。それなのに一昨日喧嘩しちまった。あいつ可愛いから、色んな奴に告られんだ。俺よりもいい男だってそん中にはいる訳だからさ、俺は変に焦っちゃって…」
励まして欲しいのは俺なのかもしれないな、と佐伯は自嘲気味で軽く笑った。
佐伯も自分と同じだ。
彼女を手放したくない。他の男に会わせたくない。
でも、実際はそんなこと不可能なわけで、その感情のせいで彼女を傷付けてしまって。
でも、まだ間に合う。
「佐伯先生、それなら」
俺は立ち上がって佐伯の腕をつかみ、店から出た。佐伯は俺の急な行動に驚いたようだった。
「ちょっ、山本先生、何ですか急に」
「彼女と仲直りしたいんでしょ?それなら今すぐ彼女の所へ向かうべきだ」
「でも、もう遅い時間だし…」
「大丈夫ですよ。きっと彼女もあなたに会いたがってる筈です」
そう言って俺は佐伯に微笑んだ。
俺も、会いたい奴がいる。