Secret Word-2
「匿名で教育委員会にメールが送られてきましてね、『山本先生は幼なじみだからといって、2Bの河合幸を贔屓している』と。教育委員会からは異動させるという声もあったようですが…。とにかく、これからは気をつけて下さいよ」
「はぁ…」
「河合も今年から受験生だから、あまり事をややこしくしたくないんですよ」
そう言って教頭は他の先生の所へ行った。
くっそ。マジありえねぇ。
特別扱い?贔屓?
笑わせんな。特別扱いも何も、俺はあいつのクラスの授業を受け持ってなかっただろうが。
教頭も教頭だ。あのハゲ野郎。マジックで髪の毛書いてやろうか。
俺の黒いオーラに気付いたのか、周りの先生からの怯えた視線に気付き、俺は考えるのをやめた。
「──そういう訳で、お前の担任は福島先生だ。良かったな」
「はぁ!?良くないし!あの人、絶対あたしのこと嫌ってるもん」
「あー、そうだろな」
「で、何でナオは1年部に変わったの?」
「さぁな。お偉いさんの考えは分かんねーや」
サチには教頭から言われたことは伝えなかった。伝えたらサチは真っ先に自分を責めるだろう。
「…さーて、じゃあ俺はそろそろ行くかな」
「えっ、夕飯は?食べてけばいいのに」
「今日はこの後、佐伯先生と飲み行くんだよ」
学校帰りに佐伯に誘われたため、俺はサチの家を後にした。
約束していた居酒屋に行くと佐伯はもう座っていた。
「すいません、待たせちゃって」
「いや、いいんですよ。こっちが早く来ただけなんで」
テーブルの上には飲みかけの水割りが置いてあり、顔がほんの少し赤い佐伯の様子から、俺が来る前から飲み始めていたようだ。
「で、何で急に俺なんか誘ったんですか」
俺も水割りを頼んで佐伯の隣に腰掛ける。
「いや、山本先生を励ましてやろうと思いましてね」
「はい?」
「残念でしたね、河合から離されちゃって」
何を急に言い出すんだ、この人は。