冷たい情愛Die Sekunde-1 -7
「ごめんなさい、最近甘えすぎてしまっていたから」
私は、とっさに謝ってしまった。
「ごめん、そういう意味じゃないんだ。甘えてくれるのは素直に嬉しいよ」
彼は、優しい笑顔でそう言った。
「1人で生きてはいけるけれど、2人のほうが絶対幸せだ…というのが正しいんだと思う」
彼は…私に何を言いたいのだろう。
「誰かがいてくれなければ生きていけない…という人間は、絶対幸せになれないし」
私は、ただ黙って彼の言葉を聞く。
「そういう人間を支える人間もまた…不幸になるんだと思う」
私の心の中が、急に不安で埋め尽くされる。
「それって…具体的に、誰かのことを言っているの?」
「まあ…ね。とにかく、俺は仕事頑張る紘子が好きだから」
彼は、どこかに行った意識をまた私に戻し…
穏やかな笑顔で、テーブルに届いた料理をゆっくりと口に運んだ。
仕事をする私が好きだと言ってくれることは嬉しかった。
ただ、彼の抽象的である言葉が…
何かの核心を突いているようにも思えた。
しかしそれが何なのかは、私には分からなかった。
・・・・・・・・・・・
金曜の夜、彼の会社の傍で待ち合わせをしたが…
急な仕事が入り、暫く退社できないという。
とりあえず社の入り口まで降りてきた彼から鍵を受け取り、私は一人先に彼の部屋へ向かった。
「ごめん…早く仕事片付けるから」
優しく謝る彼。
前と変わらず、あまり感情表現が豊かではないが…
その隙間に覗かせる優しさが、私は大好きだった。