冷たい情愛Die Sekunde-1 -2
「また口の周り赤くなってる」
「美味しいから、急いで食べたいんだよ。だから拭く暇なんでない」
子どもみたいなことを言う。
初めて出会った(厳密に言えば再会だが)頃の、冷たい彼からは想像も出来ない。
私が、半分呆れた顔をすると決まって彼は言う。
「紘子が舐めて綺麗にして」
「何言ってるのよ、バカ」
恥ずかしくなる私を、彼は優しい視線で包んでくれる。
この都会には、どれだけの人が今、存在しているのだろう。
そして、どれだけの人が愛する人と過ごしているのだろう。
彼のマンションからは、ビルしか見えない。
だけれども…私はベランダに出る度に、そこに見えない「人々」を想像する。
「風邪ひくよ」
彼もベランダに出て、私に声をかける。
「うん」
彼は、時々ふざけた事も言うけれど…
相変わらず言葉数が少ない。
だけれども、その言葉はいつも温かい。
十分すぎるほどの優しさ。
彼の顔を見たくて、私は顔を向け、それに気付いた彼は私に言う。
「どうしたの?」
「ううん、何でもない」
たった一人の人間が、私を幸せにしてくれる。
傍に居るだけで。
不幸だと思っていれば、不幸になり…
幸せになりたいと願えば、幸せになり…
幸と不幸の理論は、単純なのかもしれない。
私はこの人と幸せであり続けたいと、そう願った。