冷たい情愛Die Sekunde-1 -12
その笑顔はどこか不自然な気がしたのだ。
私は、喉まで言葉が出かかった気がする。
でも、それがどういう言葉か自分でもよく分からない。
彼は穏やかで優しい。
私が話しかければ、いつでも決まって…低く暖かい声で答えてくれる。
だからこそ…
彼の優しさが、たまに不安になる。
彼は「優しさ」以外の感情を私に見せることがない。
彼は、ネクタイを緩め、私にキスをする。
それは、愛情に満ちた優しいもの。
人を好きになり、その人がくれる愛情の行為が幸せで…
私は、満ち足りるはずなのに…
私はまだまだ…彼のことを知らないような気がする。
家族のこと、幼少時代のこと…そういう具体的な事柄は勿論だが…
そういうことより、もっと大きな漠然とした…
彼を形成する大きな何かを、知らないような気がした。
深い関係になり、彼を好きになればなるほど…
近づいても、近づききれない…何かを感じていた。
これは、幸せに慣れてしまった私の贅沢な悩みなのだろうか。