ベルガルド〜金髪の女、漆黒の男〜-5
「こんな夜遅く、みんなが僕のために集まってくれて嬉しいよ。」
女性はふわり、と微笑んだ。
屈託の無い笑顔。それが逆に恐ろしさを助長する。
『永遠にバーバラ様とともに』
黒装束を着た村人達は一斉にステージに向かって跪いた。
ベルガルドは恐怖で動けない私を、無理矢理かがみこませる。
その様子を確認すると、バーバラと呼ばれた女はヒールの踵を鳴らしながら、二人の前に進み出た。
セシルとカイは、何か感じ取っているのか、一歩後ろへ後退する。
「君、少し、いい匂いがするね。」
カイはびくっと体を震わせた。
「そう、暗い暗い、闇に咲く薔薇の匂い。」
空気が緊張している。
びりびりと体の芯まで届くような圧力。
怖い、怖いと全身が悲鳴を上げているのが分かる。
(負けてたまるか…)
私はなんとか戦う意志を取り戻す。
「薔薇?何が言いたいんですか?」
カイが恐る恐る口を開いた。
その質問には答えずバーバラはただ微笑みを見せるだけ。
「僕はやりたくないんだけど、君たちの記憶を消さなくちゃいけないんだ。教団の敵となる子には、忘れてもらわなきゃね。」
カイは目の前にいる人物を睨みつけ、セシルの前に立ちはだかり、自ら壁になった。
「ヒトにできるのはせいぜい、催眠術がいいところ…そんなものじゃ記憶を完全に消すことなどできない!!」
(カイ…あなた魔族のくせに、セシルを助けてくれるの?)
胸に熱いものがこみ上げてくる。視界が少し、滲んだ。
自分の無力さが痛い。
「僕がヒトだなんて、言った?」
バーバラが首を横に傾げて、楽しそうにカイを見つめる。
赤く潤んだ唇が妖艶に熱を持った。
「例え魔族でも…僕も負けるつもりはないです。」
「カイ様、もう魔力も回復してるんでしょ?!私に構わず、倒して!!」
セシルが叫んだ。
「ふふっ。楽しいな。君みたいな子達、大好きだよ。」
そう言って笑うと、バーバラは、祈るように両手を重ねた。
その仕草は聖女、というにふさわしい程の気品をたたえ、ため息がでるくらい美しい。しかし内側から滲み出す邪悪さを隠し切ることは出来ない。
ボン!
と、その手元が爆発した。
「なっ…!」
その手には黒く、蕾を大きく開かせた薔薇が握られていた。
「手品みたい?」
くす、と女性は笑う。
「少し魔力を爆発させただけだよ。ねぇ、君知ってた?」
カイは目を見開き、動揺しているのが遠目からも見てとれた。
「そ、そんな…有り得ない!ダーク・ローズが実体化するなんて…」
「そう?魔力が強ければ、ダーク・ローズは空中に霧散せず、実体化する。こうやって実体化してしまえば、この薔薇を食べたりしない限り、ヒトに影響は与えないんだよ?」
「なんて奴だ…やっぱりアイツが俺の親父を…?」
私は隣にいる、赤毛の少年を見つめた。
こちらが見てて痛い程に、拳を握りしめて、指からは血が滴り落ちている。