ベルガルド〜金髪の女、漆黒の男〜-4
(え…)
ぎりり、と横でベルガルドの歯軋りする音が聞こえる。
彼の声に出さない怒りが、空気感染してくるように思えた。
(セシルと、カイ…?)
私たちが追いかけて来た二人が、後ろ手に縛られ、ステージ上に引っ張り出された。
「ちょっ…」
「待て、トゥーラ。」
「で、でも!」
反抗するように、ベルガルドの方へと鋭い目線を送る。が、彼の表情を見て、それ以上の言葉を紡げなくなった。
彼の赤い瞳には、かつて見たことの無いくらい、熱く焼けるような憎悪の炎が宿っている。
その鋭く逆立った赤毛は地獄の業火を思わせた。
(ベルガルド…)
彼も自分の怒りを抑えるのに必死なのだ。
『この者達は我らの未来を阻止しようとした罪人である!』
アナウンスが声高々に、ドーム内で響いた。
岩板に音が共鳴し、マイクのような役割を担っている。
『しかし、この者達はアーレン国女王の勅使。むやみに殺すことは、両国の関係に支障をきたしかねない!!よって、』
ごくり。
と、周囲のヒト達が唾を飲み込む音が聞こえるようであった。
『ヨンウォン教の巫女により、記憶の抹消を行う!!!』
『おぉおおおぉぉ!!!!』
全員が狂喜の歓声を上げた。
(な、なんですって…?)
ステージ上のセシルとカイは、目を見開き、呆然としている。
「こんばんは、みんな。」
しぃんと、声が、止んだ。
ステージ上に新たな人影が現れる。
重力を感じさせない軽やかさで、しなやかに歩み出たその人物。
金色の長く真っ直ぐな髪の毛を躍らせ、真っ白の陶器のような肌を煌めかせる。黒いイブニングドレスに身を包んだ美しいその女性。
アレハ・・・
冷や汗が頬を伝わり落ちる。
本能が、警戒した。
「あ、ベルガルド…あの、人」
尋常ならざる私の様子に気づいたのか、ベルガルドが疑惑の目線を向けた。
「あの人、魔族の…教会の…」
歯の根が合わず、がたがたと膝がだらしなく震えている。
ベルガルドは目を見開いた。
「あの女が、お前が教会で会った女だっていうのか?」
私の沈黙を肯定と受け取ったのか、彼はステージ上をきっ、と睨みつける。