恋の奴隷【番外編】―心の音E-3
私はそんなに強くないから。弱い自分を守るためには、嘘や偽りも必要だった。人を信じることに臆病になっていた。
柚姫と出会って、私は忘れかけていた人の優しさや温かさに触れた。それでも、私は自分の殻から抜け出し切れてなかった。柚姫は素直過ぎて、私はそんな柚姫を羨ましがったりもした。そして、柚姫を失う恐さから逃げていた。柚姫は裏切ったり人を傷付けるようなことをしないって、近くにいる私が一番良く分かっていたはずなのに。誰もありのままの私を受け入れようとはしてくれないと、勝手に決め付けて諦めていた。ぶつかり合うことから逃げていた。
そんな私に、ノロは私の欲しかった言葉をくれて。その言葉に甘えてしまいたいと思う私は、ズルイ…。だけど、過去も全て受け入れて、自分と、人と、ちゃんと向き合いたいの。
「…ばか。嬉し過ぎてまた泣けてくるじゃない…」
「強がりなのか素直なのかどっちだよ」
ノロはクツクツと喉の奥で笑い声を立てながら、私の頭をくしゃくしゃと撫でまわす。
人は傷付け合うのに、人を求めてしまう。だって、その傷を治すのもまた、人なのだから。
「受け止められないなんて言わせないんだから」
「そんなこと恐ろしくて言えませんよ。骨折どころじゃ済まないからな」
涙を浮かべたままノロの顔を仰ぎ見ると、あの頃と変わらないニコニコ顔があって。瞳に溜まった雫と共にほろりと笑みが零れた。
止まない雨がないならば、止まない涙もないだろう。
雨上がりの空に虹を描くならば、
彼はその虹を描く筆のように、
涙色のキャンバスに鮮やかな色を添えるだろう。
続く