春よ来い-1
桜がひらひら舞う4月にこの学校に足を踏み入れてから半年が過ぎる。
外は大分肌寒くなり、秋から冬へと変わっていくようだ。
入学して半年も経つのに、私には友人がいない。中学から続けていた部活でも、同中の子がいないため、なかなか馴染めない。
気がつくと私は周りから「浮いてる人」と思われていた。
そんな10月の終わり頃。
「河合さん…だっけ?」
いつものように机に座って読書をしていると、クラスの女子から名指しで呼ばれた。
見た目はなるべく冷静でいたが、心の中では飛び上がるくらい嬉しかった。
「何?」
「呼んできてって頼まれて…。その人廊下にいるから…」
彼女はそう言うと廊下を指差した。教室のドアの側には男がいる。
彼女はそれを言って、またすぐに自分のグループのもとへ駆けていった。彼女は私とは目も合わせなかった。
それが少し、悲しかった。
とりあえず私は席を立って、男のもとへと向かった。
「あの、…何か用ですか?」
坊主頭のひょろっとしたその男は黙っていたが、やがて口を開いた。
「あの…、放課後、話があるんですが…」
「はぁ」
「また来ます…」
そう言って男は立ち去った。
放課後、約束通り私は教室にいた。
彼がやって来た。
彼は3年の宇佐美涼太と名乗った。そして、私に付き合って欲しいと言ってきた。
私は了承した。
別に、私も彼のことが好きだったから、なんて理由ではない。
ただ、誰かに自分の存在を望まれたことが嬉しかったからだけかもしれない。
──季節はまた巡る。
桜が舞う空の下、私は彼を待つ。
彼は今日で卒業。昨年後輩に送られた私が1年後には送る側になったというのは、少し奇妙な気もする。
沢山の人混みの中から彼が現れる。
うちの学校はブレザーだが、袖は勿論、ボタンは全てなくなっていた。