恋の奴隷【番外編】―心の音⑤-4
「ま、ナッチーは俺の予想を遥かに上回ってたけどな」
「え？」
「ガキの頃から随分整った顔してたけど、まさかこんなに綺麗になってるとはねー」
「ば、馬鹿じゃないの！？」
「ナッチーは昔からみんなのアイドル的存在だったからね」
にこりと爽やかな笑みを投げかけられ、自然と顔が熱くなる。ついさっきまではあんなに憎らしく思っていたのに…。そんな自分に、少し戸惑ってしまう。
「でもなぁ……」
ノロはそう言うとちらりと私の方へと視線を傾け、がっくりと肩を落とす。
「な、何よ」
「もうちょっと成長してると思ったんだけど…」
値踏みするように目を細めて私の胸元を見ていて。
「ちょっ…どこ見てるのよ！」
「でも安心しろよ！胸が小さくても俺はナッチーのこと嫌いになんてならないからさ！きっと毎日牛乳飲めば大きくなるっしょ！」
「なっ！？」
―何だって！？
期待を込めてって…そういう意味だったの！？
「それとも俺の手がいい？」
「…黙れ」
「ぐはっ！」
ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべて軽口を叩くノロに、ボディーブローを一発。
時の流れは本当に恐ろしい。無邪気に笑っていたあの頃のノロ。今やもうただの変態じゃない。
「げほっ…相変わらずナッチーのボディーは効くわぁー」
苦しそうに身体を屈めながらも、笑い含んだ声でそんなことを言い出すノロに心底呆れてしまう。
そういえば、あの頃も私はよくノロのことを殴ったり蹴ったりしてたけれど。私が怒っていることなんてどこ吹く風で、そういうところ、ちっとも変わっていない。
「…馬鹿ね」
むしろ、変わったのは私の方かもしれない…。
私は小さく笑ってそう言った。目の端に映ったノロの表情は、なんだか寂しそうにも思えたけれど。すぐに、またいつもの調子でふざけて笑うから、たいして気にも留めず。少し短くなった黄昏時の空の下、あの頃のように私達は肩を並べて家路を辿った。