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『one's second love』
【初恋 恋愛小説】

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『one's second love〜桜便り〜』-17

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――優しい風が流れていた。
小さな公園にたった一本そびえる桜の木が、その見事なまでに咲き誇られた花びらを、ヒラリ、ヒラリと揺らしている。

生まれたときからずっと変わらずに、そこにある当たり前の風景。
大切な物のはずなのに過ごす程に、歳を重ねるごとに、気付くことができなくなってしまう。
もっと上手く生きてこられたなら、そんなこともなかったのだろうか。
後悔することもなかったんじゃないか?


……だけど今、こうして、ここに戻ってきた自分がいる。
きっと、一人じゃ気づけなかった。
きっと、知らず知らずの内に追い込まれて、もう手遅れの状態になってた。絶望的な生活。それは、本当の意味で孤独になってしまうことなのだろうか。
どんなに頑張ったって、一人きりじゃ生きていけない。
どんなに意地を張っても、寂しさには耐えられない。

――それなら、どうすればいい?

考えて考えて出した結論は、この場所に帰ってくることだった。
かつて、幼い自分達が、ちっぽけで、たどたどしくて、それでも二人にとっては尊い約束を交わしたこの公園。

そこに、彼女はいた。




「岬」
突然、背中に懐かしい声が降りかかった。
正確には、思い出していた。記憶には定かでない。でもその声を聞いた瞬間、分かってしまった。
体が動かなくて、岬は振り返ることができなかった。
「久しぶり、だな。まだ俺のこと覚えてるかな?」
「………」
返事ができなかった。
「あれ?おかしいな。俺だって。高校の時、一緒だったろ?」
確かめるようにゆっくりと近づいてくる。岬との距離が殆どなくなった。
「もしかして、マジで忘れてる?だとしたら、結構ショックなんだけど……」

「………てる」
岬は微かに呟いた。だが、聞き取りづらいほど小さな声は、そのまま宙に消えてしまう。
「でも、しょうがないよな。卒業して、もう一年も経ったんだから。岬が思い出せないのも無理ないよ。ごめんな……」
諦めにも似た、そんなあの人の声。胸が締め付けられそうで、岬は思わず顔を上げた。


……すぐ傍に、彼が立っている。


「……覚えてる、覚えてるよ。要でしょ?」
掠れて、消え入りそうになりながらも必死に応えた。
「私、忘れなかったよ。何度だって無くしそうになった。でも、頑張ったんだよ?」
真っ直ぐに要を見つめて、そう訴える。もう、見失わないように。
「ずっと迷ってたんだ。優しい要に甘える自分が嫌で、変わりたいって思ってた。強くなりたかったんだ」
誰だって、同じ。現状に苦しんで、もっと次に行きたいから、不安になる。あの頃はただそうやって、無理矢理でもいいから前に進みたかった。
岬の目が、暗く沈んでいく。

「……だけど、ね。やっぱり私、弱かった。嘘つけなかった。怖かったんだ。あなたを失うことが、ただ怖かった。
自分で離れていったくせに、今更こんな事言って、勝手だよね。ごめん。本当に、ごめんね……」

全てを言い終わらない内に、岬の表情がぐしゃぐしゃに歪んでいった。
目に涙をため、やがて真っ赤になった頬に伝っていく。ずっと胸につかえていた物を吐き出した反動だったのだろう。
そっと、要の指先が濡れた瞼に触れた。


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