おにみのッ 第二話 「奇跡」-3
「市議会議員とアナウンサーがつい本音を漏らしたくなるのもわかるわよ。それにしても図星の人間ってのは本当に見てて面白いわ」
シャープペンシルを置くと、ミノは机の上に出しておいた携帯電話の表面を撫でる。携帯が一定の時間で点滅しているのは、授業を録音しているからだろう。ミノの変わった趣味で、現在の携帯電話を持ってからずっと世界史の授業だけを録音している。なんでも二時間も録音できるらしい。
「きっと、その市議会議員とアナウンサーはあの国に旅行できないわね。行ったら逮捕されそうだし」
黒い光沢を放つ携帯を撫でながら、優しく歌うように呟く。この上ないほど気色が悪い光景だった。
「ああ、国家侮辱罪とかでか?」
「違うわ」
ミノは携帯を撫でる手を止めて、横目でダイキを見る。ダイキから見えるミノの横顔には、くっきりと吊り上げられた唇が見える。
「国家機密漏洩罪よ」
そこで丁度授業の終了を告げるチャイムが鳴った。何事にも寛容な教師、少し悪く言えば何事にも適当な世界史教師は授業終了の礼も適当に済ませて教室を出て行った。ミノもそれに倣うかのように教室を出て行く。今は三限目。きっと毎日学校に来る弁当屋に買い物に出かけたのだろう。普段よりも早足でダイキの視界から消え た。
「……うまいな」
つい、ツッコむことを忘れてダイキは感心してしまう。ミノの変わった趣味はいくつかある。携帯で世界史の授業を録音することがそのうちの一つで、もう一つはジョークの収集をすることだった。ただ、その熱意が人の役に立ったことはないし、多分これからもそうだろう。原ミノとは、そういう女だ。
新たなミノの悪名を考える作業に入りながら、ダイキは弁当箱の蓋を開いた。今日も、良い天気だ。