おにみのッ 第二話 「奇跡」-2
「言い方が悪かったかしら? ならハゲ? じゃがいも? イシ○ブテ?」
想像以上の口撃に、ダイキは黙り込む。高校球児なら誰でも髪型のことを嘆いているのだ。いつものようにミノを刺激しないようにツッコむ元気もなくしてダイキはうなだれてしまった。黒板の前では、何から何にまで寛容なことで知られる世界史の教師が十字軍についての説明を熱心にしている。
「とにかく、野球部をやめるか規則を破って髪を伸ばさない限り高校であんたに彼女はできないわよ。出来たら奇跡ね」
そうそう奇跡と言えば、とミノは続ける。返答をせず無言の抵抗を試みるダイキは眼中にないようだ。
「最近、奇跡って多いよね」
無言の抵抗をしながら、「鬼、鬼畜、吸血鬼、悪魔」に替わるミノの異名を考えていたダイキは、加虐的な色の抜けた声色で話しかけられてつい反応をしてしまった。
「……例えば?」
「難聴が治ったりジェバンニが一晩でやってくれたりチンパンジーが首相になったりね」
「チンパンジーもジェバンニ並の努力をして欲しいな。それと実際には難聴は治ってないらしいぞ」
「あとは、抗ガン剤を使用してるのに妊娠したり」
「……それはまあ、奇跡と言うよりは知識不足なんじゃないのか?」
ミノはふっ、と息を吐く。そしてダイキから視線を逸らすと廊下側の席で教師に見つからないように読書をしている少女を眺めた。
「私からすればあの作品が本になったり映画になったりしたことが奇跡よ。常識人からすれば喜劇で、日本の将来からすれば悲劇ね」
視線の先には、読書をしている少女が熱心にページをめくる、妙な配色をした本があった。ミノの唇は鋭く歪んでいる。
「……まあ、個人の感性によるものだし。それに月日が経てば黒い歴史になるんじゃないのか? まあ、最近通常では考えられない出来事が起こってることは認めるが」
そのダイキの言葉に反応してか、ミノは勢いよく振り向く。思わずぎょっと身をすくめるダイキを前にしてミノは気色の悪いニヤケ面を取り戻す。
「アンビリバボーね。スポンサーということで不買運動を起こされ、資金提供をしている国民からもいちゃもんをつけられて不買運動を起こされたりね」
「ジェットコースターが『自由』を意味してるってやつか。確かにアンビリバボーだ。そのこじつけは普通なら言わない」
「『坊主憎けりゃ袈裟まで憎い』と言うけど、これはさながら『坊主憎けりゃコーラも憎い』だしね」
ここぞとばかりにミノは肩をすくめる。ニヤケ面は今日も絶好調だ。