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未来と過去と今と黒猫とぼく
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未来と過去と今と黒猫とぼく ー約束・後編ー-6

「私には分かる、あなたはお姉さんが大好きだった。お姉さんが教えてくれた物が、あなたは好きだった」

温かかった体温は、熱くなっていった。
伊隅さんが言葉を発する度に、さっき入ったヒビが徐々に大きくなるのを感じた。

「だったら私は?今あなたの前にいる、私の事は好き?嫌い?」

伊隅さんは笑いだすような、泣きだすような顔でぼくに問いかけた。
伊隅さんは震えていた。
震えさせたのがぼくだと分かって、悲しくなった。
嫌いだ、と答えたら、どうなるのだろう、とぼくは考えた。
そうしたらこの温かさをぼくが感じる事は、おそらく二度とない。
伊隅さんの顔を間近にみる事もなくなるし、喋る事もなくなる。
優姉さんに似た目も、笑顔も、もうぼくには向けられないだろう。
ぼくは永久に取り残される。
温かさも冷たさも、重さも軽さもない、平坦な世界へ。
伊隅さん無しで、目も眩むような時間をたった独りで生きる。
できるだろうか?
答えは、もう分かりきっていた。
ヒビはいっきに大きくなり、やがてそれは壊れて崩れ始めた。

「私を見て」

伊隅さんはぼくの目を見た、ぼくも伊隅さんの目を見た。
そこには、ぼくが映っていた。
そこに映れる自分が嬉しかったし、その後ろに映る星は美しかった。
優姉さん、ぼくには無理だ。
独りでなんて、生きられない。
崩壊は止まった。

「言って」

崩れた瓦礫の中から、何かが出てきた。
それは、ずっと前からぼくの中に在った物だった。

「伊隅さんが…」
「私が、何?」

息が上手くできなかった。
抱きしめる伊隅さんの手の力が強くなった。
同じ位の力で、ぼくも伊隅さんを抱き締めた。
ぼくは知らない世界にいた。

「伊隅さんが…」

いつしか体温は熱くなくなっていた。
ぼくに少しでも温かさがあるなら、それが伊隅さんを温めていればいいと思った。

「ぼくは…伊隅さんが…」

世界が徐々にはっきりしてきた。

「好きだ」

そこは大昔から存在する、見慣れた、温かさと冷たさと重さと軽さが支配する、複雑な世界だった。

「君を愛してる」


ー約束・後編ー 完


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