光の風 〈風神篇〉中編-1
深く深く、静けさを求めて沈んでいった。
耳を澄ませば遠くの方でいくつもの爆発音が聞こえる。その中には悲鳴も混ざっていた。
始まった。
ついに彼らは現れ、想いを成し遂げようとしているのだと分かった。
ナルは閉じていた目蓋をゆっくりと開き、自らの両手の中に水晶玉を召喚した。
水晶玉に想いを込めて映し出す、その表情はどこまでも厳しい。ナルは頭を抱えて身を縮めた。
「私に出来る事は何もないの!?」
囁く悲鳴が悲痛の叫びに聞こえる。しばらくそのままでいると、ゆっくり頭を起こし立ち上がった。
誰もいない部屋の中で、塞がれた道を再び自らの手で導きだす為に。
城内は賑やかになってきた。慌ただしい声があちこちから聞こえる、多くの発信元は避難してきた国民の集う部屋周辺だった。
しかし、日向がいる場所はそこから離れた今は誰もいない軍隊の訓練用の施設だった。汗だくになりながら息をきらして膝立ちになっている。
頬を伝う汗を拭い、日向は右手をまっすぐ前に伸ばし全身に力を込めた。
「炎!」
号令と共に腕に炎が巻き付き、手から勢い良く放出された。徐々に炎の威力は増し、それは日向の負担にも繋がっていった。
表情は歪み、苦痛の声を上げる。
「もうっダメだぁっ!」
あまりの衝撃に日向は叫び足を滑らせて地面に体を委ねる。それと同時に炎は消えてしまった。
荒い呼吸が響く。
大の字の形で寝転ぶ日向は、よほどの疲労からか目をきつく閉じたまま大きな口を開けて呼吸していた。
やがて人の形をした炎が彼の傍に現れる。
『マスター。』
祷(いのり)、そう呼びたくても日向は呼吸をするのに精一杯で声をだすことが出来なかった。何とか目を開けて視線を送る。
『だいぶ火の力を使えるようになりましたね。』
祷の言葉に日向は反応することが出来なかった。ただ呼吸は安定を求めて大きく胸を揺らす。
『さすがの素質です。あと少しで私を操る事も出来るはず。』
日向はゆっくりと祷の方へ手を伸ばした。呼吸は少しずつ落ち着きを取り戻し始めている。
「いの…り…っ。」
かすれた声が祷に届く。
日向は苦痛の表情を崩して微笑んだ。