光の風 〈風神篇〉中編-2
「大丈夫…やれるから。頑張るから…そんな顔しないで?」
日向の言葉に祷は時を止めた。恐る恐る手を自分の顔もとに置く。強ばった表情、引きつったままの自分の顔に気付かされた。
祷は恥ずかしくなり、口を覆い目を逸らす。
日向はそんな彼女を見て、また微笑んだ。つられて祷も微笑む。
『ありがとう、ございます。』
祷の笑顔を確認すると日向は重たい体をゆっくり起こした。足を投げ出したまま両手で体を支える。息はまだ上がっていた。
「あのさ、祷。」
はい。祷がそう答えようとした瞬間だった。
ドォオン!
地面が揺れる程のとてつもなく大きな爆発音が城内に響き渡った。その音の衝撃に誰もが言葉を失う。
やがて誰かの悲鳴をきっかけに、人々は騒ぎ始めた。その声はかすかに日向のいる場所にまで届いた。
「なに?何が起こったの?」
『魔物ですわ。城門を突破されたようです。』
遠くを伺うように祷は宙を見ていた。目を細める。
「魔物?確か今、王様も貴未もいないよね!?どうしよう!」
『いえ、二人とも戻られているようです。少し前ですが桂の力が使われました。』
会話の時だけ視線を日向に送り、あとはずっと宙を見て様子を伺っていた。そんな祷を見て日向は決意する。
「祷、これはどういう状況?」
決意故の発言だった。
『魔物の群れの、襲撃ですわ。』
祷もゆっくりとそれに答える。
「僕に出来ること、あるよね?この力で。」
『約束して下さい。決して無茶な真似はしないと。』
日向は微笑み立ち上がった。祷は小動物の姿になり、日向の肩に乗る。いつしか足は駆け出していた。
向かう先は城門、しかしそこはもはや戦場となっていた。あまり見ることない相手に兵士達は戸惑っていた。魔物が一歩ずつ近付く度に恐怖心は増していく。
戦場というよりは殺戮だった。
なすがままに傷つけられていく兵士達、闘志は完全に失われていた。
また一人、確実に魔物の手によって命が奪われそうになった瞬間。
聞いたことのない精神的にえぐられるような悲鳴が辺りに響いた。魔物は地面に倒れ、命はもうない。