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光の風
【ファンタジー 恋愛小説】

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光の風 〈風神篇〉中編-17

「…千羅さん。」

息を切らし、全身汚れきった千羅が、これ以上ロワーヌの進行を防ぐようにリュナとの間に剣を突きだしていた。ロワーヌの足も止まる。

千羅は体の至る所に擦り傷や汚れを作り、血を流していた。いつのまにか後ろに位置しているカルサも右肩から左脇腹にかけて大きな切り傷を作っていた。

それ以外にも擦り傷や切り傷がいくつもある。

「カルサ、その傷…。」

心配そうに様子を伺うリュナに視線もおくらず、カルサはリュナの肩をポンポンと二回叩いた。それは大丈夫という証。

カルサはロワーヌから目を逸らしていない。

しばらく沈黙が続いた。
千羅は縦にしていた剣を横にし、大きく円を描くように剣先をロワーヌにゆっくり向ける。それと同じ様に足を進めリュナの前へ、盾になるように位置した。

ロワーヌは押し負けるように後ろに下がっていく。

「リュナ、下がって。」

リュナの両肩を掴んで、カルサは自分のもとへ引き寄せる。千羅とロワーヌの睨み合いが続いていた。

「ヴィアル…失敗したのっ!?」

ロワーヌは小さく呟いた。千羅の剣は鋭くロワーヌを突き刺す準備ができている。明らかに分が悪かった。

風が通り過ぎる。

「どうする、戦うか?」

千羅が口を開いた。低く威圧感のある声は妙に響く。

ロワーヌを見る目は殺気さえ感じさせるほど鋭かった。しかしロワーヌは冷静に受け流し、視線だけをリュナ、カルサに移した。

そして目を細め、決定打を得たのか呟いた。

やはりと。

「貴方達、何かが違う。」

二人と千羅を視線だけで何回か見比べ、そしてまた違うと呟いた。

「力の本質が違うわ。まるで…ウレイそのもの、環明そのもののよう。」

誰も彼女の言葉に反応を示さなかった。千羅の剣先はロワーヌを捕らえたまま。

「貴方達の本当の名前を教えて?」

ロワーヌが問う。

「千羅。」

カルサの声を合図に千羅は剣を振り上げ、ロワーヌに斬り付けた。しかしロワーヌは既に後方に下がり、傷ひとつ付いてはいない。

何の手応えも得られない事は元々分かっていた。しかしロワーヌの表情はどこか淋しい。


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