光の風 〈風神篇〉中編-13
黒く長い、ウェーブのかかった髪を風に揺らす。およそ腰まであろう髪は彼女に独特の雰囲気を漂わせた。黒い柔らかそうな、地面に広がるほど長いドレスもそれを助ける。
彼女は切なさに似た、それでも感情を顔に出さずにそこに立っている。
深く艶やかな黒い衣裳、しかしどこか違和感を覚えて仕方がない。リュナは眉をひそめ目を凝らした。
その艶やかさ、それは多分。
(血液?)
リュナは自分の中に答えを出し、再び目の前にいる女性の全身を見た。
右手の衣裳に隠れた部分、風にドレスが舞う度にささやかに見え隠れする。彼女は返り血を浴びていた。
リュナの鼓動が早くなっていくのが分かる、嫌な予感がしてたまらない。
「貴方、誰?」
彼女は答えない。
「何でここにいるの?その血…その血は誰よ?」
彼女は少し目線を下げた。やけに血の跡が鮮やかに見えてくる、危険信号が強くリュナの中で鳴り響いていた。
「誰を傷つけたの!!?」
悲鳴に似た叫びは風に消される事無く響く。リュナの拳は強く強く握りしめられていた。
その瞳はしっかりと目の前にいる女性を捕らえて離さない。
「彼女は知りすぎた。」
落ち着いた、品のある声がリュナの耳に届く。間違いなく目の前にいる女性が発している声。リュナは何か不思議な感覚に陥る。
「自ら禁忌を犯したの。」
何も言えず、ただ彼女を見る事しかできなかった。
知りすぎた彼女、とは?
リュナの中に一人浮かんだ人物がいる。強く、優しく、偉大なる人物。
「誰を…っ!?」
女性はゆっくりと首を横に振り、リュナを見た。リュナの表情は不安に満ちている。
「この世には知ってはいけない事が沢山ある。でも知らなければいけない事もあるのよ。」
そう言って最後に微笑んだ。その表情があまりにも優しくて、自分の感情を忘れて見とれてしまう。
彼女は誰だ?
「貴方は誰?」
リュナはもう一度尋ねてみた。女性は優しい微笑みで答える。