光の風 〈風神篇〉中編-12
レプリカはすぐに体を起こしたが、そこにリュナの姿はない。思わず叫びそうになる名前を堪えた。
まるで金縛りにあったように、レプリカはそこから動けなくなってしまった。
さっきまでの戦いの名残か、粉塵が風に舞う。
「ウィルサ、新しい人。」
無意識にこぼれ落ちた言葉が風に消される。
左手は右腕を支え、ゆっくりとレプリカは足を進め始めた。
「リュナ・ウィルサ、それが…貴方の名前です。」
囁くように呟いた言葉。それはリュナに向けた言葉だった。一歩一歩と足を進めていく。
彼女の目は強い意志を持ち、足取りも確かなものだった。
リュナは再び屋根に上がり、また戦場と化しつつある広場を見つめていた。
どこかしこからも闘志に満ちた声が聞こえてくる。その声は大気をも震わせる程の威力だった。思わずリュナは身を縮める。
目を閉じる事でより強くそれを感じられた。
やがて、ゆっくりと目を開けて空を仰ぎ深呼吸をする。瞬きをして次に目に写したものは戦場だった。
右手を横に出し、それを中心にして風が巻き起こる。リュナの髪が服が風になびく。
「行くわよ、社。」
その瞬間、広場の入り口にまた風の壁が生まれ、巻き込まれた魔物は悲痛の叫び声をあげ切り裂かれた。またそれを越えようとする魔物も同じように刻まれてしまった。
リュナの瞳に宿る力は強いままだった。
次々と兵士と魔物を見分け、敵ばかりを自らの風で攻撃をしていく。目前の敵が倒れた兵士は気付き、辺りを見回した。
そして高く、城の屋根の上から攻撃を仕掛けるリュナの姿を発見した。
「リュナ様だ！！」
周りの動きを見ながら確実に魔物だけを目標にしていくリュナ。
一人の兵士の声に何人もが彼女を見上げる。
今まで式典などで柔らかく優しい風しか見せたことのない彼女には戦う印象など誰も持ってはいなかった。だが今は違う。
まったく違う雰囲気はカルサに似ているのだろうか、今のリュナはまさに戦いの神・御剣と呼ぶに相応しい顔つきをしていた。
広場の魔物を大部分倒し、リュナはその手を一時休めた。手を下ろし、少し上がりかけた息を正常に戻そうと呼吸をする。
ふいに後ろから吹いた風に違和感を覚え、リュナはゆっくりと振り返る。
次第に視野に入ってくる姿、そこには見覚えのない女性が立っていた。
彼女に殺気はない。