「命の尊厳」中編-21
「…ねえ。お母さん…」
「なあに?由貴」
対面に腰掛ける京子は、優しく由貴に答えた。
だが、由貴が言った次の言葉に愕然とする。
由貴は微笑みを湛え、
「私が居なくなったとしたら、ごめんなさいね」
あまりにも唐突な言葉。京子は一瞬、固まった。
が、次の瞬間、イスを立ち上がると怒りに任せて言った。
「なんて事言うの!授かった命を粗末にするなんて」
人目も憚らず、京子は思いを言い放つ。唇を震わせ、瞳に涙を溜めて。
そんな母親を見ても、由貴は動じる事無く言葉を返す。
「お母さん。彼女…野上諒子さんを助けるためには…そうなるかもしれないの…」
由貴の瞳も、涙で濡れていた。
すっかり日の暮れた中、列車は南へと向かった。
…「命の尊厳」中編 完…