「命の尊厳」中編-15
「ん〜〜っ」
由貴はスケッチブックを持って似顔絵をじっくり眺めながら、脳裏に浮かぶ残像と比較してから、
「もうちょっと頬骨が張ってて。眉毛が太くて…鼻は低かったかなぁ」
彼女の言葉に、谷口は修正を加えていく。描き直しては由貴に見せ、違えば修正する作業を数回繰り返した後、
「そんな感じだったかなぁ…」
スケッチブックを持つ由貴が、納得した表情を見せた。
「じゃあ次ね」
谷口は色鉛筆のフタを開けて、肌色や茶色、ピンクなど、数本を取り出して、再び由貴に尋ねながら、スケッチ画に色を付けていった。
「これでどうかな?」
谷口は完成させた似顔絵を由貴に見せた。
「あっ、そんな顔です。夢で見たのは」
茶色の髪にアーモンド形の目。
眉毛は薄めで下アゴは張り、やや低い鼻と薄い唇。
谷口は頷きながら、似顔絵の完成したスケッチブックを桜井に渡した。
桜井は由貴に頭を下げる。
「ありがとう。これで容疑者探しの基準が作れた。感謝するよ」
由貴は焦った表情で桜井に両手を振りながら、
「と、とんでもないです。私こそ感謝してるんです。野上諒子さんのためになれるんで……」
そう言って笑顔を見せた。
しばらくして桜井と谷口は帰って行った。由貴と京子は〈よろしくお願いします〉と言って2人を見送った。
署へ戻るクルマの中、おもむろに谷口が語り掛ける。
「…いいお嬢さんですよね…」
「そうだな」
桜井は運転席で頷いた。
「…何とか、彼女の思いに報いてやりたいです…」
谷口の熱い思いを、桜井は受け取めると厳しい表情を浮かべた。
「君は自分の仕事を全うして似顔絵を描いてくれた。ここから先は、オレ達刑事課の仕事だ」
昼の日射が強くなる頃、2人を乗せた県警の特殊車両は、高速を北へと向かった。