「命の尊厳」中編-11
「…是非とも、捜査に協力してくれないか?!」
「き、協力…ですか?」
由貴は顔を上げてすっとんきょうな声を挙げて桜井に聞き返した。
桜井は大きく頷きながら、
「そう!君の、夢で見たという男のモンタージュ作成と、事故前後の状況を現場で教えて欲しいんだ」
そう言ってテーブルに手を付き頭を下げた。
「でも……」
躊躇する由貴を桜井は説得する。
「君の情報によって、君に心臓をくれた野上諒子さんの無念を晴らせるかもしれないんだ!頼む」
再度、頭を下げる桜井。
由貴はとなりに座る京子を見た。
京子は笑顔を作り頷くと、
「由貴の好きになさい」
そう優しく語った。
由貴も笑顔で京子に頷いて桜井を見つめると、しっかりとした口調で答えた。
「分かりました。協力します」
「やってくれるか!ありがとう」
桜井は、そのいかつい顔をくしゃくしゃにして喜び、思わず由貴の手を握った。
「…あ、あのう…」
その変わりように戸惑う由貴。
「ああっ!こいつはすまない。つい嬉しくて」
桜井は慌てて手を離した。
その恰好がおかしかったのか、由貴と京子は笑ってしまった。
桜井も苦笑いを浮かべる。
だが、気分は晴れやかだ。八方塞がりだった捜査に、一筋の光明を見い出した思いだった。
玄関口に立つ桜井は、ハツラツとした表情を由貴と京子に向けた。その顔を見る2人も自然と笑みになる。
「細かい日程については、後日連絡をさせてもらいますから」
桜井の言葉に由貴は頷いて、
「はい。こちらこそ宜しくお願いします」
そう言うと頭を下げた。
2人は玄関先で桜井が帰って行くのを見送った。