ベルガルド〜ルトの民と成人の儀式〜-6
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「トゥーラ女王って…すごいヒトだね。肝が据わっているというか…」
「そう、私の恩人!」
私はヒトを殺してきた分、ヒトを救わなければならない。
女王を守る。それは国民を守ること。
「カイ様、この話をしたのは…お願いをするためなの。」
「何?」
「この先…大人数で戦う状況になって…私が暴走したら止めて欲しい。護衛をするときも、命を奪わないように気をつけているんだけど…多人数と戦うと、制御しきれないから…」
「セシルちゃん…。分かった。必ず止めるよ。」
「ありがとう、カイ様」
その時馬車が停車した。
扉が開かれ、足を縛っていた縄が切られる。
「降りろ」
黒装束の男に強引に引っ張られるままに、私達は鬱蒼と木々が生い茂る森の中、洞窟のような場所へと誘われていった。
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「随分と寂れた村だな。」
「ちょっとベルガルド!そんなこと言ったらヒトに聞こえるでしょ」
「ふん、どうせ死んだ魚の目した奴しかいねぇんだから関係ねぇだろ。」
馬車の事故が起きた近くの村。
怪我をしたセシルを運ぶのなら、間違いなくこの村にいるはず…そう思ってここに来たのだが、未だに見つけることが出来ずにいた。
「もう夜も遅いし…話を聞くヒトもいなくなっちゃったわね。」
「ちっ。急を要するっていうのに。」
「お前さんだぢ…」
背後から声を掛けられて振り向く。
そこにはがたいのいい、大木のような男が立っていた。
「なんだ、てめぇ。」
「ちょっと!どうしてそう誰に対しても喧嘩腰なの!?…コホン、何かご用ですか?」
トゥーラは取り繕うように、わざとらしい笑みを浮かべた。
「お前さんだぢ、ひょっどすて金色の坊主とちっごい娘っこの知り合いが?」
「!!?」
「そうです!二人はどこにいるんですか!?」
「そんだど思った。滅多にヨソ者が来る村でないんでな。」
「いいから、どこにいるかと聞いている。」
ベルガルドが苛々したように問いつめた。
「宿に泊まっでたんだけんど、ヨンウォン教のやづらに連れで行かれちまったど。」
「!!?なんだと?どこに行った!?」
「わがらん。ただ、ヨンウォン教徒はいっづも、夜中にミサを開くでなぁ…この村のやづらの後をつけて行っだらわかるんでねぇが?」
今までひっそりと静まり返っていた村だったが、次々と家の扉が開かれ、中から黒装束を着た住人達が姿を現した。
皆が森の方向に向かい列になって歩いて行く。
「あれか…」
真っ暗な森の中、列になって歩いていく黒装束の集団。
ベルガルドとトゥーラは、その光景に不気味さを感じながらも、静かに後を付けていくことにした。