ベルガルド〜ルトの民と成人の儀式〜-5
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トゥーラ様に出会ったのは、3年前。
その頃の私は、襲いかかってくる者を殺し続け、自分で暴走を抑えることが出来なくなっていた。
「警備を破って私まで辿りついたのは、あなたが初めてよ。」
目の前にいるのは私と同じ歳くらいの美しい女の子。
月明かりに照らされた真っ白な肌、潤んだような大きな瞳。濡れたような長い黒髪。
この女王も殺したら…みんなと同じように、冷たくなって、動かなくなるのだろう。
今まで殺してきた男たちと同様に、虚ろな目を虚空へと彷徨わせるのだろうか。
そう考えると、体が硬直して動けなくなった。
(お願い、私に向かってこないで…殺したくない…)
「辛そうね、どうして?」
キシッとベッドを軋ませて、女王が裸足で床に立った。
「私を殺したいのなら、そうしなさい。あなたがそれを望むというのなら…」
そう言いながら、貴女は私の頬に触れた。
真っ白で、ひんやりと冷たい手。
訳もわからず、ただとめどなく私の頬を流れる涙を人差し指で拭い、こう言ったのだ。
「あなたを護衛団長に推薦するわ。」
「え?」
呆気にとられた。いま、何て言ったの…?
「ここまで辿りついたのだから相当強いのでしょう?暗殺業をやめなさい、私が代わりにいい仕事を紹介する、と言っているのよ。」
「へ?」
またしても私は素っ頓狂な声を出すことしか出来ない。
理解できない。理解できない人間が目の前にいる…。
こんな人間の対処法は教わっていない。
「あなたが嫌々ヒトを殺していることくらい、私にも分かる。それならば、ヒトを守るためにその力を使いなさい。」
にこり、と。その女王は美しく妖しく、微笑んだ。
私はかつてこんなに落ち着いていて、こんなに澄んだ瞳で相手を真っ直ぐ見る人間と出会ったことがなかった。
「あなたは私を守る、私は国民を守る。とても名誉な仕事でしょう?私に仕えなさい。」