ベルガルド〜ルトの民と成人の儀式〜-4
はぁ、はぁ、はぁっ。
コレが夢なのか現実なのか、ふわふわとした感覚の中、息が乱れる。
サツジンキ。
その言葉が頭の中を反芻した。
最後の部屋に足を踏み入れた時、そこには3人の男がいた。
銃を構える2人の男。その男たちに守られるようにして、年配の1人の男が隠れていた。
「私たちにはそんな武器は効かぬ。」
そういうと父様は、敵の死角を縫って、次々と二人の男を倒してしまった。
「ひっ、ひぃ…」
残る男は、声をひきつらせて、後ずさりしている。
「さぁ、セシル。殺せ。それで成人の儀式は完了だ。」
私はビクッと肩を震わせた。この異様な光景に圧倒され、声も出せず、ぶんぶんと頭を振るだけ。
「何を嫌がることがある。私達ルトの民は暗殺を請け負うことで生活の糧を得ている。ルトが生きていくためには仕方のないこと。自分で仕事が出来てこそ、ルトの成人だ。」
私はぶんぶんと頭を振り続ける。
そんなことはしたくない。ヒトの命を屠ってまで、生きてはいけない。
けれど…
「こんなところで殺されてたまるか…お前らが死ねぇぇぇえ!!!!!」
先ほどまで後ずさっていた男が走って迫ってくる。
その手には煌く刃物が見えた。
「私は殺したくない!!!」
けれど……けれど
私は襲いかかってくる男の手首を軽く捻り、刃物を奪い取った。
そして流れるような動きで…
気がついた時には、刃物を持つ手に血が滴っていた。
最後の男が血まみれで倒れている。
「セシル。これで成人の儀式は終わりだ。よくやったな。」
父様の声も耳に入らず、私は呆然とする。
けれど…私の意志とは関係なく、私はヒトを殺してしまうのだろう…
それならば、もう…
どうでもいい
*
体が緊張しているのが分かる。声が上手く出せない。
昔の話を思い出すとき、怖くて、悲しくて、手が震える。
「その後も、私は父に言われるがままに“仕事”をしてきた。逆らう方法も分からず…ずっと…ごめんなさい、こんな話をして」
耐え切れなくなって私は謝罪の言葉を漏らした。
「そんな辛い過去を背負ってたんだね。その小さな体で…」
カイ様の手が私の頬に触れた。
そして、流れる涙を、人差し指で拭う。
「カイ様もトゥーラ様と同じ…。手は冷たいのに、すごく…あったかい。」