ベルガルド〜ルトの民と成人の儀式〜-3
次の日。
連れて行かれたのはアーレン国だった。
見たこともない建物。見たこともない人々。
全てが新しく、様々な物に目を奪われた。
父様は嬉しくて駆け出しそうになる私を許さなかったが、いつかこのアーレン国の住民のように自由になって、色々なヒトと話が出来るのかもしれないと、淡い期待を抱いたのを覚えている。
そんなことが許される筈がなかったのに。
「ここが目的地だ。」
広大なアーレン国の中でもかなり田舎の方面。
大きな庭を持つ“別荘”という建物に連れて来られた。
「お前は私が教えた通りのことをすれば良い。行くぞ。」
父様は“別荘”の門をくぐった。
侵入を阻もうとする男たちを次々と倒していく。舞うように、踊りながら。
“ルトの舞術”
実戦で使われる様を初めて目の当たりにした。
稽古ではただ、その技術を学ぶだけで、実際にヒトに使ったこともない。
私はただ、呆然としながら、父様の後を付いていくことしかできない。
その時、1人の男が私に襲い掛かってきた。
大きな手が、私を捕らえようと迫ってくる。
「や…っ!」
一瞬。何が起こったのかわからなかった。
体が勝手に動いた。
私は男の背後に回り込み、高く飛び上がった後、男の首に足を絡めた。
そして捻る。
ゴキッ
首の骨が折れる鈍い音と共に、男の体が地面に崩れた。
「え…?」
私、何をしたの?
どうしてこのヒト動かなくなっちゃったの?
訳もわからぬまま、私は襲いかかるヒトを次々と地に沈めていった。
自分の意思とは関係なく動く体。
気づけば私は涙を流していた。
「この二人、ルトだ!この衣装間違いない!あの殺人鬼だ!!!」
「早く大臣を安全な所に!!」
私たちの姿を見た者が叫びながら屋敷の最奥へと逃げ出した。
サツジンキって…?
だけど、私の問いに答える者はいない。
「セシル、何を泣いている。急ぐぞ、標的を逃がす訳にはいかぬ。」
その時に見た父の目が忘れられない。
渇望するような、野生の獣のような闘気を宿した目だった。
手を引かれるままに、屋敷の奥へと走っていく。