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伊藤美弥の悩み 〜受難〜
【学園物 官能小説】

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高崎龍之介の告白 〜伊藤美弥について〜-2

そして――初春。


失神した時の介護役として兄さんに付き添って貰った僕は、高校へやって来ていた。
「……お。合格か」
当人より先に兄さんが僕の受験番号を見付けて、そう言う。
「おめっとさん。今夜はご馳走をおごってやろう」
その言葉に、僕は返事をしなかった。
僕の斜め向かいにいた女の子に、何故だか視線が吸い寄せられていたのだ。
『受かった受かった』とはしゃぐ女の子が、抱き着いている女の子に。
「ミヤ!これで高校も一緒だよぉ!」
ふぅ、ん……あの子、『ミヤ』っていうのか。
何となく、猫っぽい名前だな。

くらぁっ……

「……あ……れ……?」
霞む意識の中、僕は兄さんに寄り掛かる。
「龍之介!?」
ぷつん、と僕の意識は途切れた。


……。
目が覚めると、保健室のベッドの上だった。
「……また、か。情けないなぁ……」
思わず、呟く。
こうして何の前触れもなく失神するのだけは、勘弁して欲しい。
「気が付いた?」
カーテンの間から顔を覗かせてこちらを覗き込んでいるのは……さっきの女の子。
「!!!」
僕は慌ててベッドから起き上がろうとし……体をふらつかせた。
「あ……無理しちゃ駄目だよ」
慌てて近付いて来た『ミヤ』は僕をベッドに寝かせようとして、体に触れる。
「えっ?」
驚いて、僕は声を出した。
今までは……間違って母さんが触れた時ですら、悪寒や鳥肌から逃れられなかったのに……。
『ミヤ』が触れた所はほんのり温かく、体が拒否反応を示さない。
「汗、凄いよ……タオル、借りて来るね」
そう言って、『ミヤ』はカーテンで仕切られただけの簡素なベッドルームから出て行く。
少しして戻って来た『ミヤ』は、手に濡らしたハンカチを持っていた。
「保健医さんが見付からなくて……タオルの場所、分からないの」
そう言って、『ミヤ』は僕の額を濡らしたハンカチで拭い始める。
ひんやりした感触が、心地良かった。
「……ありがとう」
拭い終わる頃、僕は『ミヤ』へ礼を言う。
「どういたしまして」
ハンカチを畳み直して僕の額に置いた『ミヤ』はにこりと微笑み……僕は心臓を飛び跳ねさせた。
……やっぱりおかしい。
一体どうしたんだろう?僕の体……。
「目の前で倒れられたら、ほっとくのも寝覚めが悪いし」
『ミヤ』が僕を見る。
「……受験勉強による過労?」
「……まあ、そんなところかな」
事情を説明するのも面倒なので、そういう事にしておいた。
「そっか……無理しちゃ駄目よ」
『ミヤ』が立ち上がる。
「私、そろそろ行くね」
その言葉に、僕は心臓が痛くなった。
「あ……ハンカチ、好きなように処分してくれていいから」
好きなように?
「君……春からここに通うんだろ?」
カラカラに渇いた声で、僕は尋ねる。
「え?うん」
「じゃあ、入学式の時に会おう。その時に、返すよ」
『ミヤ』に会う口実が出来た。
それだけで、体が熱くなってしまう。
「……うん。期待しないで待ってるわ」
『ミヤ』が、出て行く。
それと入れ代わりで、兄さんと保健医がやって来た。
「路子さん!?」
ベッドの上に起き上がった僕は、驚いて声を上げる。
保健医は僕達兄弟の遠縁に当たる女性だったのだから、知らなかった僕が驚かない方が無理だ。
「今な、路子にお前の状態を説明しておいた。春からは、全面的なバックアップをしてくれる」
兄さんの言葉で、僕は二重に驚く。
「兄さん……路子さん……」
「つらい目に遭ったわね、龍之介君」
路子さんがそう言って、僕に触れた。
「!!」
ゾッとして、僕はその手を振り払う。
「あ……」
驚く僕達三人。
「今の子は、平気だったのにね……」
路子さんの言葉に、僕は頷いた。
『ミヤ』に触られるのは平気……いやむしろ、心地良かった。
初めて『あの人』に触れられた時も……。
「ッ!!」
吐き気が込み上げて来て、僕は口を手で押さえる。
路子さんが慌てて持って来た洗面器の中へ、僕は胃の中の物をぶちまけた。
胃液で灼(や)かれた喉が……痛い。
「もしかすると、僕……」
だけどこれは、口にすべきだと思った。
「あの子の事……好きになったのかも」


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