愛奴隷@-1
愛奴隷。
そんなものをここの屋敷では、飼っているらしい。
無論らしい、というのも、俺自身目にしたことがないからだ。
こうして、このドデカイ屋敷に勤めて、数ヶ月してようやくその存在のみを知ったの
だ。
コツコツ、と化け物でも出てきそうなほど、暗い廊下を歩いていく。
石造りの壁や床からは、無言の圧迫を感じ、はやくも俺は嫌になった。
しかし、愛奴隷飼育係という役職を主から受けている限り、引き返すわけにはいかな
い。
俺は主の奴隷ではないが、金の奴隷だ。
そんな下らない考え事をしていると、暗い廊下に変化が現れ始めた。
牢獄である。
空っぽの牢獄が懐中電灯の光が届く範囲に、ズラリと並んでいる。
「……」
屋敷の地下迷宮には、もう絶句するしかない。
しかし、こんなとこに人を飼うとは、人権侵害も良いところである。
よくてコウモリ、悪くてラスボスが住むとこであって、少なくとも人間様が住む所
じゃない。
一番奥、と聞いていたのでまっすぐにその牢獄へと向かう。
暗闇の中の一際暗い、まるで別世界がぽっかりと口を開けているかのような場所に
『彼女』はいた。
当てられた懐中電灯に眩しそうに目を細めている。
「俺が担当の日向だ。着替え、入浴、排泄。すべての世話は俺に任された。奴隷、つ
まりキサマは家畜と同義である。人権などあると思うな」
主人に命令された通りの言葉を吐きながら、俺は奴隷である少女を観察する。
年は14か15歳だろうか。とにかく思ったよりも幼い。
身につけている物は、おそらく寒さを避けるために支給された毛布のみ。それを彼女
は、一生懸命抱き締めている。
ここから伺えるに、彼女の羞恥心はかなり強い。おそらくそういう経験も無ければ、
異性に裸を見られた経験すら皆無だろう。
これはかなり苦労すると見える。主の鬼畜ぶりからして、とんでもないいたぶり方を
するに違いない。
視線を顔に移して、そのあまりの可愛らしさに俺は息を呑んだ。
くりくりとした小動物のような瞳に、どことなく幼さを感じる顔の輪郭。
その顔は、表参道を歩けば、スカウトでもされそうなくらい愛らしかった。
「あのぉ、あたしはどこに連れて行かれてしまうのですか?」
「豚に口はない。許可なくしゃべるな」
言いたくないがあくまでマニュアル。
「ご、ごめんなさい、ぶーぶー」
おちょくっているのか、それとも天然なのか、彼女はわざわざ語尾に豚の擬音を引っ
付ける。
叱ろうとも思ったが、あまりにシュンとしている様子なのでやめることにした。
天然なのだ。たぶんサンタクロースを未だに信じているくらいに。
「今から愛奴隷に値するかどうかの身体検査を行う。移動するから、そこの手錠を嵌
めてから出てこい」
手錠には、愛奴隷の反乱防止の目的がある。
慣れるまでは安全を考慮というわけだ。
嵌めたのを確認し、檻の鍵を開ける。
ビクビク、と彼女は出てきて、俺の顔を見上げた。
無垢な瞳で見上げられると、思わず罪悪感が沸いてきてしまう。
悪いのは主と金、悪いのは主と金。
呪文のようにそう唱えながら、俺はようやく心の平穏を取り戻した。