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恋の奴隷
【青春 恋愛小説】

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恋の奴隷【番外編】―心の音B-1

Scene3―やっぱり変態!

「お待たせっ!」

奴は昇降口を抜けると猛スピードで自転車を取りに行き、颯爽と再び私の目の前に現れ、白い歯を見せて笑う。

「あら、自転車なら一緒に帰れないわね。残念だけど私電車なの」

待ってないっつーの、と心の中でほくそ笑みながら、私はわざとらしく眉を下げてそう言って、キョトンとしている奴を尻目に足を早めた。

「だから?」
「ひゃぁ!?」

ちょうど校門をくぐり抜けた辺りで、奴がいきなり私の前に顔を覗かせたものだから、私は素っ頓狂な声を上げてしまった。

「だ、だから!私は電車!あなたは自転車!別々に帰宅!以上!」
「なぁんだ」

不意に腕を掴まれ、自転車の荷台にちゃっかり座り込んでしまったわけで。

「ちょっ!?何すんのよ!?」
「ほら、ちゃんと掴まって?」

勢い良くペダルを漕ぎ出したものだから、不覚にも寄り添うように奴の背中にぴったりとくっついてしまった。

「降ろしなさいよ!」

それでも奴の後ろで必死にもがいていると、

「そんな暴れてたら落ちちゃうだろ」

奴はちょっぴり怒った声で、私の腕を引っ張ってそのまま離してくれなくて。これでもかってくらいうるさく打ちつける心臓を宥めるのに精一杯で。結局、私は俯いたまま静かに奴の背中におさまったのだった。


「ナッチー俺のこと嫌い?」

自転車を漕ぎながら奴は唐突にそんなことを聞いてきた。

「言ったでしょ?大嫌いって」

私は心底不機嫌そうに言い放った。

「じゃあ、これからたくさん俺のこと好きにさせられるじゃん」

きっと私のどんな悪態も彼には通用しないだろう。異常なまでのプラス思考なのだから。

「ナッチーは幸せ者だな!」

なんて言って軽やかに笑っている奴を、理解しようとする方が間違っている。


「着いたよ!」

暫くして奴は自転車を漕ぐ足を止めた。そこは学校から二駅程過ぎた辺りの閑静な住宅街。

「ナッチーついてきて」

奴は自転車を道路脇に寄せて、手招きをしている。道かどうかも定かではない民家と民家の脇をすり抜けて、辿り着いた先はフェンスで囲われた小さな空き地だった。そこにはぽつんと寂れたバスケットゴールが一つ。さっきまで軒を連ねていたたくさんの家も、まるで消えてしまったように、周りには何もなくて。

「さてと!始めますか」
「…一体何なのよ?」

訝しげにそう尋ねると、

「バスケ!したことあるっしょ?」

そう言って、奴は空き地に転がっていたバスケットボールを拾いあげると、一定のリズムで地面に打ち付け始めた。


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