未来と過去と今と黒猫とぼく ー約束・前編ー-5
今更思い出してもしょうがない、例え思い出すにしても今この時である必要は無い。
たまたま偶然、目の前にあるものが自分の知るもの類似していて、それをきっかけにふと過去が頭がよぎる。
何だかありがちな事だった、それだけに、頭の整理は実に楽だった。
過去を振り返った事も、二秒後には忘れていた。
どれくらい無言が続いていただろう、ぼくは段々と気が滅入ってきていた。
寒そうにしていたから暖かいおしるこを奢った行為は、彼女から見て不合格だったのだろうか。
それとも他に、寒さをしのぐにはもっとよい方法を彼女は期待していて、ぼくはそれをしなかったのだろうか。
どちらでもよかった、とりあえず、この場をどうにかしたかった。
ぼくと伊隅さんの間に流れたぼくの知らない空気を、ぼくは持て余したのだ。
「…少し寄ってこうか、歩き疲れたよ」
伊隅さんはふいに口を開くと、ぼくの返事を待たずに公園の中へ入って行ってしまった。
ぼくも伊隅さんの後について公園へ入った、だってまさか、放っておく訳にはいかない。
伊隅さんはブランコへ歩いて行って二つある内の片方に座り、もう片方を指差して言った。
「座りなよ」
「うん…」
ぼくはそれに従い、ブランコに腰をおろした。
鎖が、キィと音を立てた。
伊隅さんはまた缶を両手で包むように持っておしるこを飲んだ、もしかしたらそれは彼女のクセなのかもしれない。
ぼくは辺りを見回した。
ブランコの他にもすべり台や鉄棒、小さなジャングルジムといったオーソドックスな遊具が広めの公園にパラパラと散っていた、日陰つきのベンチもあった。
休日には子供達が野球なんかをしに来るんだろう、人が集まるにはそこはちょうど良い場所だった。
それだけに、今のこの、伊隅さんと夜の公園に二人きり、という状況はやけに不自然に思えた。
まるで、そう、これから青春ドラマの恋愛シーンが始まってしまいそうなシチュエーションだ。
そんなものは、ぼくと共有していい物ではない。
だって、とぼくは思った。
だってぼくには約束がある。
優姉さんとの約束がある。
そこまで考えて、ぼくは苦笑した。
考え過ぎと、自意識過剰にも程がある。
伊隅さんは、歩き疲れた、と言った。
この寒空の中、30分近く歩いたんだ、体力がない女子ならそれは疲れてしまう。
だから、その言葉には何の裏もないだろう。
「ふう」
おしるこを口から離し、伊隅さんは安心したように息をはいた。
やはり、疲れていたんだ、少しここで話しでもしながら、伊隅さんが元気になるのを待とう。
そう思いながら、ぼくも自分のミルクティーを飲み干した。
「いい公園だね」
伊隅さんは周りを見回して言った。
彼女も、なんとなくここを気に入ったようだ。
「そうだね」
ぼくも頷きながら、そう言った。